2016/06/03    11:05

「国を持つ」ことが、理想であることを知っていますか

「植民地」といえば、1960年の「アフリカの年」に代表される戦後の各国の独立によって、終わりになったように思われている。しかし、世界を見渡せば今日でも、植民地支配が続いている地域がある。たとえば、ウイグルや、チベット、内モンゴルといった場所がそうである。いずれも中国共産党政府が支配しているが、民族も宗教も文化も異なる人々が住んでいる地域だ。
 
これらの地域を「植民地」と名指しするのは、中国側からすれば“内政干渉”にあたるのかもしれない。しかし、中国の統治の実態はあからさまな植民地政策である。中国政府は漢民族を意図的に入植させて、元から住んでいる人々を「漢人」と同化させようとする。言語や教育、宗教までもを奪い、反政府活動の鎮圧と称した虐殺を繰り返す――。
 
こうした現状に対して、世界のウイグル人組織を統括している「世界ウイグル会議」は、民族の権利として自決権を求めている。自分たちの運命は自分たちで決めるという権利のことである。2日に参院議員会館で開いたシンポジウムでは、同会議のラビア・カーディル総裁らがウイグルで行われている中国による苛烈な統治政策や虐殺について報告し、日本からも協力を求めた。
 
中国による弾圧から逃れようと難民となり、東南アジアに渡ろうとした人々が、現地で拘束され、過酷な条件下で収容されるといった問題が起きているという。
 
だが、ウイグル問題は、日本ではまだ広く知られているとは言えない。現在進行形の問題として、マスメディアで特集が組まれることも、あまりない。こうした切実な問題に対して、現代の日本で暮らす私たちは、どこまでシンパサイズすることができるだろうか。もし理解を阻んでいるものがあるとすれば、それは何だろうか。
 
まず一つ考えられることは、「自決権」という言葉そのものを、私たちがあまり意識しなくなっていることである。「民族自決の原則」と言えば、それは歴史教科書の中の話であり、「ウッドロー・ウィルソン大統領」という名前とともに暗記する言葉になってしまっている。
 
そもそも、国の防衛すらアメリカにほとんど任せきりで、70年間を過ごしてきた戦後の日本である。「自分たちの運命を自分たちで決める」ということが、いかに重要で、いかに切実なことなのか、語られることは少ない。「国を持つ」ということが、一つの理想であることを、私たちは知らない。
 
「人権」という言葉から、国家が抜け落ちていないかという観点もある。一般に国際協力と言えば、発展途上国の貧困対策やそのためのボランティア活動を思い浮かべがちだが、「国を持つ」「自決権を持つ」ことを応援するという支援もあり得る。
 
もう一つは、先の大戦に対する歴史認識の問題も挙げられるだろう。第二次世界大戦で日本が戦ったことによって、結果的に戦後、アジアの国々は次々と独立を果たすことができた。日露戦争でロシアを破ったことで、各国のナショナリズムを勇気づけた日本は、第二次大戦では、実際に東南アジアで独立勢力の部隊を教育したり武器を与えたりしている。日本の敗退後に現地の人々が武器を取って、植民地を奪還しようとした欧米側と戦った。そもそも戦前から、日本にはアジアとの連携を掲げて、各国の人々を支援してきた先人たちがいた。
 
アジア各国の独立を応援したいという彼らの「真心」が分かれば、歴史の問題と現代において共産中国によって虐げられている人々の問題との間に、連続性があることが理解できる。アジアの解放に尽力した先人の心を知ることが、今日、依然として共産中国による植民地支配に苦しんでいる人々と連帯する上での基礎になる。
 
「自決権」という言葉に、現代の私たちはもはや無頓着になってしまっているのかもしれない。しかし、この言葉を、沖縄の活動家の専売特許にしてしまっていてはいけないのである。現代にも植民地支配に苦しむ人々は存在する。彼らは、少数のイデオローグが「少数民族だ」と曲解して国連で訴えるまでもなく、紛れもない専制の被害を受けている人々だ。日本はどのように連帯し、支援することができるのだろうか。

「ウイグルの人々を政治亡命者として認定すべきではないか。多くの人数は受け入れられないかもしれないが、自由を求める人々を受け入れる責務があるのではないか」

パネリストからこうした発言が上がると、シンポジウムの会場からは拍手が起きた。「難民」と言えば、シリアでの内戦をきっかけに、日本も受け入れを拡大すべきだという議論が上がっている。しかし、身近な東アジアの問題を、日本が率先して解決すると旗を振ることの方が先であり、ウイグルやチベットの問題に対するスタンスが定まってこそ、シリアからの難民の保護も議論することができるようになるのではないか。そのためにはまず、現代の日本に暮らす私たちが、「国を持つ」ということの意味と向き合わねばなるまい。

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