2016/09/14    12:44

オバマをののしったフィリピン大統領と中国問題

“son of a bitch”という言葉は、学校の授業などではとても教えられない罵り言葉である。「お前はあばずれの股から生まれてきた」などと言われれば、誰であってもいい気はしない。当然のことながら、外交の舞台で使えば国際問題になる。
 
実際にこのほど、オバマ米大統領に対してこの言葉を言い放ったのが、フィリピンのドゥテルテ大統領。両者はASEAN首脳会談が行われるラオスで首脳会談を行う予定だったが、挑発的な発言を受けてオバマ大統領がキャンセルした。
 
ドゥテルテ氏の一連の発言の背景には、同氏が進める麻薬との闘いがある。
 
麻薬の撲滅を掲げて5月に当選したドゥテルテ大統領は、「10万人のギャングを殺して、マニラ湾に沈めてやる」などと豪語していることで知られる。大統領就任以来、これまでに厳しい取り締まりによって、1000人ともされる人々が殺害されたという。「撃ってから尋問する」という大統領の方針によって警察官に射殺された人もあれば、自警組織によって命を奪われた人もいる。
 
逮捕して裁判を行うといった正規のプロセスを経ずに取り締まりの現場で殺される人が相次いだことに対して、欧米ではドゥテルテ氏が人権を軽んじているという批判が渦巻いていた。オバマ大統領が首脳会談でこの問題を持ち出す予定であったため、ドゥテルテ氏があらかじめキレたなかで、冒頭のフレーズが飛び出した。同氏は、独立国家であるフィリピンの内政問題にオバマ氏は首を突っ込むべきではないと、次のように述べている

私は独立国家フィリピンの大統領だ。植民地としての歴史はとっくに終わっている。フィリピン国民以外の誰からも支配を受けない。一人の例外もなくだ。私に対して敬意を払うべきだ。簡単に質問を投げかけるな。このプータン・イナ・モ(くそったれ)が。もし奴が話を持ち出したら会議でののしってやる。

荒々しい言葉を使う罵り外交がどれだけ生産的なのかは疑問があるが、興味深いのは、欧米が守れと迫る人権と、ドゥテルテ氏なりの人権の解釈との間に隔たりがあることだ。

確かに法制度や治安が整っている欧米の基準からみれば、ドゥテルテ氏の手法は独裁者のそれでしかないのかもしれない。しかし、警察が麻薬組織などと癒着しているなどして犯罪を解決できないなら、いくら「法の支配」と言っても絵に描いた餅になってしまう。

フィリピンでは、報告された犯罪件数のうち解決された事件の割合は、2005年には90%近かったが、2013年には28%台にまで低下している。犯罪の7割が未解決ということだ。しかも、警察に報告されていない犯罪の数を考慮に入れれば、この数値はもっと下がることになる。ドゥテルテ氏を大統領に押し上げたのは、こうした治安の悪さに対する国民の危機感だ。麻薬のまん延したこの国では、多少の強権的な人物でなければ、安全が維持できないという声だ。ドゥテルテ氏の支持率は、7月の調査で実に91%を記録している。

欧米メディアの言うように、適切な法の裁きを受けられない人々にも人権はある。その一方で、麻薬のまん延によって日々の生活の中で危険を感じている一般の国民の命を守ることも、政治家の重要な仕事である。「独裁者」「強権」「暴言王」といったレッテルをドゥテルテ氏に貼るだけなら、こうした点が見えなくなってしまう。

一方で、フィリピンの立場から見逃せないことは、中国によって領土が脅かされているという現状だろう。ドゥテルテ氏は、フィリピンが独立国家である以上、他の国からの干渉は受けないと主張した。フィリピンは主権国家であり、自分の国のことは自分で決める権利があるという論理である。そうしたロジックに立つならば、中国による南シナ海の領有権問題こそフィリピンの領土と国民の安全を脅かす主権の問題であって、その問題に対処するためには、アメリカとの協力が必要であるという点にも目を向ける必要がある。

ドゥテルテ氏は中国との対話を試みる立場を示しているが、そもそも前政権がハーグの常設仲裁裁判所の判断を仰いだのは、中国と建設的な対話で問題を解決できる望みが薄かったからではなかったか。アメリカとの関係で国家主権を主張しながら、中国による海洋進出を見過ごすわけにはいかないだろう。

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