2016/09/06    11:54

オバマ外交の鍵はアジアよりワシントンにある

中国が主催したG20サミットで、オバマ米大統領が歓迎されていなかったことは、空港に着いた時から明らかだった。飛行機のタラップを降りるオバマ氏の足元には、あるはずの専用タラップもなければ、レッド・カーペットも敷かれていない。「いつものやり方と違う」と抗議する米政府のスタッフが、「ここは中国の空港だ」と突っぱねる中国側のスタッフと口論になった。
 
たかがレッド・カーペットと思われるかもしれない。しかし、細心の注意を払って演出を行う国際会議でのことである。しかも、李克強首相がイギリスを訪問した時に、中国側はレッド・カーペットが3m短かったとわざわざクレームを付けている。オバマ大統領にレッド・カーペットを用意しなかったのは、わざとに違いない。
 
オバマ大統領と習近平・国家主席は首脳会談で、温暖化対策を定めた「パリ協定」に両国が批准することを発表し、協力ムードを演出した。昨年12月のパリでの国際会議で定められたこの協定は、批准国の温室効果ガスの排出量の合計が、世界全体の排出量の55%以上になることを求めている。二大排出国である米中がそろって批准を表明したことで、条約の発効に向けて弾みがついた格好だ。
 
かねてから環境問題に強い関心を示し、地球温暖化を「人類の脅威」と呼ぶオバマ大統領は、中国との共同批准を自身の政権の「レガシー」として、誇りたいところだろう。しかし、より切実に問われているのは、オバマ氏が掲げた「アジア・リバランス」政策の成果の方だ。
 
中国が地域の覇権国として台頭してきていることを念頭に、アメリカの外交の軸足をアジアに移すと宣言したオバマ政権だったが、南シナ海で中国が人工島の建設を進めるなど、地域の安定は実現していない。そもそも、「アジア重視」の目的自体、中国の覇権主義に対応するために同盟国との協力を進めることにあるのか、あるいは中国との協力を進めることにあるのか、どっちつかずの面も指摘されている。
 
アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・オースリン日本部長は、米ウォールストリート・ジャーナル紙への寄稿で、「オバマ氏は自身のリバランス政策のゴールが何なのか十分に言明したことがなく、一部の同盟国はアメリカがアジアの問題にどのように関与するのかについて誤った解釈をし、中国のような国はアメリカの介入主義に警鐘を鳴らした」と述べている。
 
今回のG20とそれに続くASEAN首脳会談は、オバマ大統領にとって最後のアジア外遊となるため、「アジア・リバランス」の成果が問われる場として注目が集まっていた。しかし、オバマ氏のアジア政策の成果を問うのであれば、その鍵は現地のアジアではなく、ワシントンにこそある。環太平洋の12カ国が参加するTPP(環太平洋経済連携協定)をアメリカが批准できるかどうかが、議会の動向にかかっているからだ。アメリカでは11月の大統領選に立候補している二大政党の候補者が、そろってTPPへの反対を表明するなど、自由貿易そのものに対する反対の風が吹いている。
 
交渉参加国それぞれが身を切るようにして国内の説得に努め、延々と続いた交渉の末にまとめ上げたはずの協定である。そしてオバマ大統領も妥結の際に、「中国のような国には貿易のルールを書かせない」と意気揚々と宣言していた。そのアメリカが批准できずにハシゴを外すことになれば、アメリカのアジア政策を他の国はもはや信じることができなくなる。
 
シンガポールのリー・シェンロン首相は、8月初めの会合でオバマ大統領にTPP批准を促し、次のように述べたとニューズウィーク誌が伝えている。

交渉の席に着いた貴国の同盟国や友好国は、それぞれに国内の政治的かつ微妙な反対論を押し切り、しかるべき政治的な犠牲を払い、ようやく協定をまとめ上げた。なのに土壇場で、もう結婚式場で待っているのに花嫁が来ないという事態になれば、たいそう失望する人がいるだろう。

オバマ大統領のアジア外交の成果を占うカギは、アジアではなくワシントンにある。アジア外遊そのものよりも、外遊から帰ってきてからの期間こそが、「アジア・リバランス」の最後の正念場である。

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