2015/07/05    10:00

人材教育の前に

人材教育の前にと題してコメントしてみたいと思います。
人材教育問題で悩んでおられる経営者は大変多いと思います。

業績不振のおりに経営者の心も知らず、緊張感なく冗談や軽口を言っている社員の姿をみて、時に憤り、焦燥感に苛まれたり、やるせない気持ちを経験された経営者は多いのではないでしょうか。経営者の悩みは社員にはわからない。経営は厳しく経営者は孤独です。その孤独や厳しさに正面から向き合い、その中にひとつの生きがいを見出せる人が、立派な医院経営者となってゆくのだと思います。
 
世の中には様々な経営者研修があり、経営コンサルタントがおり、さまざまに経営者の相談役を買ってでる方々が存在します。その中には「経営がうまくいかないのは社員の生産性が低いからだ」とか「マニュアルを整備すれば業績は向上する」など、悩んでいる経営者の耳に優しく、喜びそうなタイトルをつけて、経営者の不安に訴えミスリードする方々もいるかも知れません。しかし経営の王道という観点から考えた時、果たして業績が悪いのは社員のせいなのでしょうか。
 
いつの世も良薬は口に苦しで、本当に必要な助言は経営者の耳に痛いものです。筆者も小さいながら会社の経営に携わっており、そこから逃げたくなる経営者の気持ちも理解できます。しかし一流の経営者や一流の経営コンサルタントは「社員の問題」というようなことは教えていません。 皆、異口同音にこう言っています。
 
「すべての責任は経営者にあり」
 
実に厳しい教えですが、厳しくともこう考えることが、立派な経営と立派な業績という「果実」を生む「種子」となるのだと筆者は考えています。そして見方を変えると「すべての責任は経営者にあり」とするこの考え方は、実に合理的でもあるとも考えられるのです。なぜなら、人は他人の心を自分の思う通りにはできませんが、自分の心は100%自分の自由に委ねられているからです。
 
社員を変えようとする前に、徹底的に自分を変革することのほうが、実ははるかに合理的であり、精神的にも健全であり、もっとも生産的な社員教育ともなると思われるのです。これは著名な経営者も指摘しているところで、もっとも効果の高い社員研修は「社長自身が研修を受けて自己変革することである」と言っています。これらは、実は知らず知らずのうちにトップ自身が「組織の発展のボトルネックになっている」ケースがほとんどであることを指摘しているのです。  
 
悩みの渦中にある時、経営者は視野が狭くなり「もう方法はこれしかない」などと悲観的で断定的な結論を出しがちです。しかし、悩みの渦中にある時には重要な判断をしてはいけません。むしろ日常から離れ、遠くから自分と自分の会社を眺めてみることが大切です。完全な休養(リトリート)を持つことが正常な判断をするためにはぜひとも必要です。
 
いったん日常から離れ、冷静になった時、必ずや、またふつふつと「良い会社をつくりたい」という念いが湧きあがってくるはずです。道は無限にあり、本当はその行く手を邪魔する誰かがいるわけではないことに気づきます。人は自由であり、不自由もまた、自らがつくりだした心の投影であることがわかります。 こう考え、いったん気持ちをリセットし、気力を充実させて新たなスタートを切ることがとても大切なことだと筆者は考えています。
 
ずいぶんと遠回りな人材教育に関するコメントとなってしまいました。「事業は人なり」が真実であるならば、まず経営者自身が厳しい環境で努力奮闘し、その後ろ姿でもって社員を教育しようと思うことが、人材教育に関する経営の王道であると筆者は考えています。王道はいつも、経営者に都合が良いものではなく、厳しいものなのですね。 なかなか実践できていない自分にもどかしさを感じたとしても、理想の旗を降ろすことなく、精進してまいりたいと思います。
 
 
以下、経営の神様 松下幸之助さんの言葉をご紹介いたします。
 
 

「魂を入れた教育」  
 
事業は人なり、といわれるように、人材の育成ということは非常に大切だと思います。
 
それで、最近では、どこの会社や商店でも、従業員教育に力を入れ、そのための制度や組織をもうけたりもしているようです。ただ私は、そのように従業員教育のための制度や組織を立派なものにしていくことももちろん大事だと思いますが、何よりも大切なのは、その教育にいわば魂を入れることだと思うのです。  
 
それはどういうことかといえば、会社であれば」経営者、商店であれば店主の人格の反映というものがなくてはならないということです。それが一番大きな教育法だと思います。
 
といっても、経営者なり店主が非常に立派な人格者で、何でも模範的でなければならないということではありません。そんなことはなかなかむずかしいし、第一それではきゅうくつで、疲れてしまうでしょう。決して神様である必要はない。というよりあってはならないと思います。普通の人間であっていいというか、人間的欠点を持っていていいし、またそれをさらけだしていいと思うのです。私のいう人格と、人間的欠点とは両立するわけです。
 
ただ、大事なのは、その働きにおいて模範的でなければならないということです。いいかえれば、熱心であるということになると思います。欠点はたくさんあってもいい、いわば随所にボロがでるということでもいい。けれども、店主であれば、この店を経営していこうという熱意においては、どの店員とくらべても最高でなくてはならないと思うのです。そういうところから、店主としての模範的な働きも生まれてくるでしょう。そして昔から”頭が動けば尾も動く”というように、店主にそういうものがあれば、しぜん従業員にも反映して、従業員の模範的な働きが生まれ、人が育ってくると思います。
 
けれども、いかに学問もあり、立派な才能を持っていても、熱意がうすいと人はついてきません。それでは、どんなに従業員教育の制度や組織だけを整えても、ほんとうには人は育ってこないと思います。
 
それとともに大事なのは、部下の意見に耳を傾け、これを十分にくみとることです。そのことは、衆知を集めて経営の成果をあげるという面からももちろんなのはいうまでもありません。けれども、ただ単にそれが会社なりお店の経営にプラスするだけでなく、部下の意見をくみとることは、その人に自信を持たせ、成長させることにもなると思います。その意見に耳を傾けることをしなければ、部下の人もいつしか意見をださなくなり、その成長もとまってしまうのではないでしょうか。
 
ですから、人材の育成を願うならば、まず経営者自身、店主自身が商売に熱意を持つとともに部下の意見を十分にくみあげることがきわめて大切だと思うのです。
 
(出典:松下幸之助 『経営心得帖』

自戒を込めて。 

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