2017/02/06    10:34

「アメリカ・ファースト」を実践する安倍首相

経済政策とは、国のなかで「誰を大切にするか」という問題でもある。規制を緩和して企業家を有利にするのか、社会保障を手厚くして弱者を大切にするのか。関税と補助金で農家を守るのか。さまざまな目的と方法とがある。

この点、アメリカのトランプ大統領のメッセージは明確だ。海外に拠点を移してしまった製造業を国内に引き戻す。インフラ投資などを活発に行って、大規模に雇用を創出する。そして、テロ対策を強化する。その強引なやり方に、議論は百出しているが、少なくとも、一人ひとりが働いてお金を稼ぎ、安全に暮らせることを政策の目標にしている。

これに対して、はた目から心配になるのが、日本の安倍首相である。なぜなら、政府をあげて、働かないことを奨励するようなメッセージを、必死に発信しているからだ。

当初、掲げていた「三本の矢」の総括もそこそこに、安倍政権が最近、前面に押し出しているのは、「働き方改革」とカジノ法案である。「働き方改革」については、大手広告代理店の若手社員が過労自殺したことを受けて、残業時間を厳しく規制する動きが急ピッチで進んでいる。

また、経済産業省の呼びかけで月末の金曜日を「プレミアムフライデー」と呼び、この日は仕事を午後3時に終えて週末を楽しもうという取り組みも始まる。消費の停滞でデフレ脱却が遅れる中で、少しでも国民にお金を使ってもらおうという意図が感じられる。カジノ法案にしても、タンス預金など世の中で眠っているお金をなんとか引っ張り出して、経済の活性化のために役立てたいのだろう。

こうした政策から浮かびあがってくる、アベノミクスが大切にしたい国民の姿とは、どのような人物だろうか。それは、残業もせず、仕事はそこそこに退社して個人の趣味や楽しみにふけり、時には貯金を取り崩してカジノで遊ぶような人ということになる。

もしこうした人々がこれから増えていったとしたら、日本経済は成長するだろうか、あるいは衰退するだろうか。答えは明らかだろう。国民が一生懸命に働いてこそ、経済は成長するのであって、政府が率先して国民が働かないように旗を振っていては、国は豊かになりようがない。

もっと噴飯ものなのは、安倍首相が国内ではこのように働かないことを推奨するような取り組みを進めていながら、今度はアメリカに行って雇用創出を約束するというニュースである。安倍首相は10日に行うトランプ大統領との首脳会談で、インフラ投資などによる4500億ドル(約51兆円)の市場を創り出し、70万人の雇用を生み出すと提案するのだという。日本の年金資産を活用するなど、かなりの熱の入れようがうかがえる。

安倍首相は、トランプ大統領の誕生によって始まった、いわゆる「トランプ革命」が、世界の趨勢になると見て、素早くこれに続こうとしたのかもしれない。だが、トランプ大統領を見習うのならば、「ジャパン・ファースト」を掲げて、日本国内に新たな産業を興したり、製造業を復活させるようなイニシアチブを取ろうとするのが本筋である。トランプ氏が掲げているような大減税を、日本でも実践してみるのでもいい。

国内の経済政策はそこそこに、アメリカでの雇用創出を約束するというのでは、まるで「アメリカ・ファースト」を、アメリカ人でもない日本の首相が実践しているかのようである。

トランプ氏の登場の意味合いは、ボーダレス化を目指した世界の流れがいったん止まり、再び国ごとを単位として、国益の拡大や経済成長を争う時代が訪れたということである。そうした中で、胸を張って「ジャパン・ファースト」と言えなければ、日本の首相はトランプ氏と渡り合うことはできない。トランプ時代の日本のかじ取りは、早くも雲行きが怪しくなっている。

(筆者のブログより転載しました)

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