「カツラが経費として落ちると聞いておりましたので、植毛も落ちると思っておりました。植毛は美容整形と同じだと言われまして、初めて分かりました」
こうボヤいたのは、元プロ野球選手でタレントの板東英二さん。2013年に個人事務所が税金の申告漏れを指摘されたことについての、記者会見でのひとコマだ。指摘された申告漏れは7000万円以上にのぼったが、その中には、植毛が経費で落とせなかったという問題があった。
カツラは衣装代だから経費だが、植毛は美容整形だから経費にはならない――。この話だけを取り出せば、何かのコントのようだが、そのコントを国レベルでやろうというのが、消費税率の引き上げと同時に導入されようとしている軽減税率の議論。何を軽減税率とするかについて細かく議論しなければいけないからだ。
何が生鮮食品で、どれが加工食品なのかなど、様々な議論がある。考えれば考えるほど、これは神学論争としか言いようがなくなる。
たとえば、新聞は軽減対象にするとして、本はどうか、雑誌はどうだ。新聞協会によれば、新聞が軽減されるべきなのは、知識や教養を普及する役割があって民主主義の担保だからという理由らしい。じゃあ、ヌード写真を袋とじにしているエッチな週刊誌も雑誌は雑誌だが、これも軽減税率なのか。こういう雑誌も「知識や教養」を普及していると言えるのだろうか。青少年に大人の社会の現実と性知識を普及しているから当てはまるのだとでも言うのだろうか。そうすると、そもそも「知識や教養」の定義ってなんだろう。まったくの禅問答で、袋小路だ。
こうしたややこしい問題について、23日付の朝日新聞がコラム「天声人語」で、欧米の極めて先進的な事例を紹介している。
英国に「ポテチ裁判」と呼ばれる有名な租税訴訟がある。日本でもおなじみのスナック菓子プリングルズの発売元が「税法上はポテトチップスではない」と訴えた▼いわく「イモ由来の成分は42%どまり。ポテチではなくビスケット類。だから付加価値税はゼロにして」。税務当局は「味、製法、包装、宣伝ともポテチそのもの」と反論し、英最高裁は発売元の訴えを退けた。6年前のことだ▼英国在住13年のウエイド美加さん(50)によると、これ以外にも似たような租税審判はいくつもある。ドミノ・ピザは「当社のピザは熱々ではない。注文の時点では冷たい。冷凍ピザと同じく非課税に」と訴えて退けられた。逆に白を黒と言いくるめるような理屈が通り、課税を免れたチョコレート菓子もあるそうだ
何かの品目を軽減税率に指定して特別扱いすれば、当然、軽減を受けようとして抜け穴を探したり、こじつけを言ったりする人々が出てくる。しかし、これは悪いことではない。当局を出し抜いて少しでも得をしようという庶民の知恵というやつだ。
むしろ、考えなければならないのは、課税を通じてこうした珍問答を始めてしまった政府のやり方が正しかったかどうかだろう。「この商品はポテチかどうか」について政府も延々と議論すれば、民間の方も問題を法廷に持ち込んだりして、お金も時間もかかる。これは社会のロスではないのだろうか。もっと生産的な時間やお金の使い方はないのだろうか。
「社会保障のために」という美名のもとに消費税率は引き上げられ、景気が冷え込んで、国民は苦しむ。軽減税率の神学論争に付き合わされるのも、結局のところ、国民である。そして、そうまでして消費税を多くとったところで、社会保障が維持できる保証もない。さて、こうした茶番はいつまで続くだろうか。ひとつだけ分かることは、こういう議論を大真面目にできる日本は、とても平和な国だということである。
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