2014/10/28    22:38

小学生が一体の仏像に脳天を貫かれた理由

小学生の時、私は奈良県•興福寺東金堂にある、薬師如来坐像の威厳に、脳天を貫かれた。
 
親の奈良旅行に同行した際、ふらっと入ったお堂で、ふと正面を見上げた瞬間だった。体が動かなくなり、薬師仏に吸い込まれるような感覚を、今でも鮮明に覚えている。
 

放課後は、レゴの寺で法要ごっこ

 
その時から私は、小学生にして仏像マニアになった。家に帰った私は、粘土で両手に乗るサイズの仏像を作成。金色に塗り、蓮華座と光背も付けた。
 
家にあったレゴブロックで、大寺院を建立し、「金堂」と名づけた建物に、その仏像を安置した。レゴの人形は「髪の毛パーツ」を全て外し、僧侶に"出家"させ、お堂に整列させた。その大寺院を使って、放課後はいつも「法要ごっこ」にいそしむ。親はさぞ心配しただろう。
 
中学に入ると、その趣味はさらに加熱。仏像関連の本を貪り読み、長期の休みには、全国の仏像に会いに行った。カルチャースクールにも通い、仏像彫刻の稽古もした。仏画もコツコツ練習した。私にとって、あの木や墨の匂いこそ、青春の匂いだ。将来の夢は、もちろん仏師(仏像彫刻家)。「高校に行かず、京都で弟子入りする」とさえ考えていた。さすがに周囲に止められたが。
 

今さらの「仏像ブーム」

 
当時の私はもちろん、クラスの「変わり者」だった。同級生に「仏像が好きなんだ」と告白すると、みんな反応に困った。「好みはいろいろだから、私はいいと思うよ」などと、励まされることさえあった。
 
しかし最近、若者の間に「仏像ブーム」がやって来たらしい。シニア向けの「古美術」だった仏像が、時を経ても色あせない「アート」として見直されているのだとか。本屋に行けば、若い女性でも手に取りやすい、仏像のフォトブックが並んでいる。博物館で仏像展を開けば、仏像好きの女子、いわゆる「仏像ガール」が殺到するようになった。仏像の素晴らしさを表現する時も、「イケてる」「カッコいい」といった、露骨な若者言葉を使うのが風潮らしい。
 
正直、「何を今さら」とも思ったが、仏像を愛する身としては大歓迎だ。日本の仏像は、繊細さと威厳を持ち合わせた、世界に誇るべき美術だと信じている。その仏像が若者の身近な存在になることは、日本人特有の感性が、世代を超えて受け継がれることでもある。
 

「アート」ではもったいない

 
ただ私は、仏像を「アート」と捉え直すだけでは、もったいないと思う。
 
私は奈良に行くたび、その薬師如来に挨拶に行く。ある時、その仏像の前で「なぜ小学生の時、この仏像に、あれほど心打たれたのだろう」と考えてみた。
 
当時の私には「アート」という概念はなかった。はっきり言えば、薬師如来を「美しい」と思った記憶もなかった。その仏像は、写真を見れば分かるように、ずいぶん渋い容貌だ。最近の仏像ファンの間でもてはやされる「阿修羅」とは、芸術的に比較にならない。
 
よく考えれば、小学生の私がしたことは、長い歴史の中で、この仏像を拝んできた人々の立場に立つことだった。どの時代かは分からないが、着物を着た、時代劇の登場人物のようなつもりだった。
 
昔の日本人にとって、仏を拝むということは、現代人が、旅先の寺で手を合わせるのとは訳が違う。それぞれの人生を生きる人たちが、様々な悩みを胸に、仏像を「信仰の対象」として拝んできた。その思いを想像しながら仏像を見上げるのと、単なる芸術として見上げるのとでは、その表情の見え方も、お堂の雰囲気の感じ方も、全く異なる。
 
大事なのは、それが仏像を造った仏師たちが意図した見方だということだ。私はずっとこのスタンスで、様々な仏像を見上げてきた。
 

歴史のロマンの、最も濃密な部分

 
例えば、奈良や京都にある、国家事業で造られたような寺院の仏像たちは、日本の歴史に残るような指導者たちの、心の支えでもあった。
 
ある仏像は、孤独な最高権力者が、「自分の政治はこれでいいのか」を問いかける対象だった。ある仏像は、乱れに乱れた国民の心を一つにする、最後の手段として造られた。またある仏像は、家や国の命運をかけた戦を前に、祈りを捧げる対象だった。その時代特有の危機感や不安感、期待や高揚感を想像しながら見上げる仏像は、芸術以上のものだ。
 
私にとって仏像鑑賞とは、歴史のロマンや、ドラマの、最も濃密な部分を味わうことだったのかもしれない。

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