2016/12/01    10:06

「親日の在日」として――アイデンティティの問い

韓国政府が発行した緑色のパスポートを持って、海外で生活するという経験は、自らのアイデンティティーに突きつけられた、この人生で最も大きな問いだったのかもしれない。

韓国人の両親から在日3世として生まれた私は、法律上、確かに大韓民国の国民である。しかし、日本で生まれ育った私は、“祖国”に行ったこともなければ、“母国語”も話すことができない。文化的には、ほぼ100%の日本人だ。幼い頃からマスコミに興味を持ち、高校時代には学校新聞の編集長をしていたくらいだから、日本語についてはなるべく正確に使おうという意識をもって暮らしてきた。


◆アイデンティティーを見つめるという経験

しかし、大学進学のために18歳でアメリカに渡った自分を待っていたのは、「自分は韓国人である」という現実だった。「呉亮錫」という私の名前は、日本語で読めば「ご・りょうせき」で、韓国語では「オ・リャンソ」となる。パスポートに書かれているのは、もちろん後者の方だ。小さい頃から「ご・りょうせき」として生活してきた私は、日本を離れる瞬間に、呼ばれ慣れない「オ・リャンソ(Ryangseok OH)」となった。学校での登録にも、卒業証書にもその名前が記されている。英語では発音しにくいから、ファーストネームの最初のスペルを取って「ライアン」という英語名もつくった。

異国の地で出会った「韓国人としての自分」は、果たして、本当の「自分」なのだろうか。なじみのない自分の名前を呼ばれるたび、違和感とともに、疑問を感じずにはいられなかった。

それ以外にも、不思議な点には事欠かない。たとえば、万が一、アメリカで事故か何かに巻き込まれれば、韓国人である私に連絡を取るのは、韓国の大使館ということになる。でも自分は、韓国語は話せないし、韓国に家族はいない。韓国のKBSテレビが私の安否情報をニュースで流したところで意味はない。日本にいる家族や友人のもとに情報が届くまでに、どれくらいの時間がかかるだろう。

そんなことを考えれば考えるほど、自分は韓国人というよりは、日本人なのだということがよく分かった。たとえ、体の中には朝鮮半島の血が流れているとしても、私は日本人なのである。私が知っている韓国は、知識として持っているイメージでしかない。私が自然な愛着をもって「ふるさと」と呼べるのは、日本なのである。

こうしたことは、日本で暮らしていたままであれば、気づかなかったことかもしれない。日本の外に出て、アイデンティティーを見つめるという経験は、自分にとってとても大きな財産になった。アメリカでの生活体験も踏まえて、日本という国の素晴らしさをより深く理解することができた。そうして、この国のために何かお役に立ちたいという気持ちも、持てるようになった。

私は現在、日本への帰化を申請しており、許可されれば新たに日本人となることができる。帰化というのは、国籍を、自分の祖国を選択するということであり、この国で暮らす多くの人にとっては、経験することのないプロセスだ。そうしたアイデンティティーの問いを通過した「新日本人」として、少しでも日本の民主主義のお役に立てればというのが、私の願いだ。

民主主義は多くの人々が意見を戦わせて、国のかじ取りを決めていく仕組みだ。多様な意見が存在すればするほど、議論に厚みが増し、民主主義は強くなる。起こり得る様々なシナリオをひとつずつ検討していくことで、意思決定はより正確になる。民主主義における意思決定にも、多様な意見が欠かせない。日本がより素晴らしい国にしていくために、同じ日本人同士が議論し合う。その議論の輪に、独特の視点を提供し、この国に貢献することができれば、これに勝る喜びはない。

昨今では、在日の問題が改めてクローズアップされてきている。同じ在日という立場に生まれた若い世代には、過去の憎しみを超えて新たな日本人として社会に貢献していくことこそが、まっとうな道であると呼びかけたい。そして、朝鮮人と聞けば誰もが悪人だと決めつけるような論調に対しては、日本の社会に貢献することを願っている「親日の在日」も確かに存在するのだということを伝えたい。

私は、この日本という国が、これからもより素晴らしい国へと発展していくことを信じている。そして、たとえささやかでも、私もそのお役に立てればと思う。

(※ 本稿は「ニュース屋台村」に最初に掲載されたものです。)

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