2016/10/30    13:00

ゲーテとヘルメス思想――『ファウスト』の底流に見える影響

ゲーテは、18世紀から19世紀に活躍したドイツの偉大な詩人、作家であることはよく知られていますが、ヘルメス思想の影響を受けていたことをご存知でしょうか。

彼は、若い時から錬金術や神秘思想に興味を持っていました。
 
ヘルメス思想とは、ヘルメス・トリスメギストスが書いたとされる『ヘルメス文書』によって知られている哲学および宗教思想です。それは、神秘的、錬金術的、天文学的と幅広く、霊知を持てば人間も神の世界に帰還できるという考え方をしています。
『オカルト事典』では、ゲーテについて、次のように紹介しています。
 

ゲーテはソクラテス以前の哲学者たちにおけるのと同様に、神話と科学と芸術が合流する一つの哲学を、ヘルメス思想を足掛かりにして構築しようと試みている。(398頁)

 
ゲーテは西洋人であるため、彼の作品は西洋文明の基礎を作ったキリスト教の思想に基づいているように思われがちですが、実際はそうではありません。ゲーテ自身も、次のように述べています。
 

さまざまな意見を研究し、自分自身の宗教をつくりあげた。それは新プラトン主義を根底におきヘルメス思想、神秘主義、カバラなどを、それぞれ加味し、ひとつの世界を自ら築きあげた。(『詩と真実』 菊盛英夫訳、人文書院、1962年、305頁)

 
このように、ゲーテは、新プラトン主義やヘルメス思想はなどの神秘思想を研究し、独自の宗教哲学を築きました。ヘルメス思想はカバラにも影響を与えましたが、カバラとは、ユダヤ教神秘主義の一つです。
 
ゲーテの代表作品『ファウスト』の主人公ファーストは、悪魔の力によって翻弄されながらも、結局は更に成長し、人類のため社会のために活動しようと努力するに至り、救われます。その救いは、キリスト教的な他力ではなく、努力という自力に天上の愛が加わったものです。そして、この救いはこの世ではなく、天上界でなされます。

その理由について、ゲーテは次のように『ファウスト』の中で説明しています。
 
なぜなら、「命はしばしの借り物であり」(『ファウスト』 第2部23)、「この世はただの映像に過ぎない」(同上、24)からです。この世は、「人生は彩られた映像としてだけ掴める」(同上、25)世界なのです。
 
これは、肉体でできている命は僅かの間の借りのものであって、自分の本来のものではない。この世も夢、幻の世界であり、魂を浄化するための試練の場です。浄化された魂は肉体を脱ぎ捨て、本来の霊界へと生まれ変わるという意味ですが、『ヘルメス文書』にも、次のように、同じ意味を表す一節があります。
 

神の本質は、もし本質があるならば、美であり、他方、美と善とはこの世界(コスモス)にあるもの何もののうちにも把握されないのである。なぜなら、眼に入ってくるものすべて幻影であり、影絵のようなものだからである。(『ヘルメス文書』 荒井献・柴田有訳、164頁)


これは、本当の世界や本当の事物はあの世にあるのであって、この世の、人間の視覚で見えるものはすべて本当の世界の影絵のようなものであるという意味ですが、ゲーテの言葉ととても似ていますね。
 
ファーストの対極として登場するのがメフィストフェレスです。彼は、打算的、形式論的であり、努力することを嫌い、ギリシャ古典美は目に映らず、「北方中世キリスト教的騎士時代の産物」として描かれています。この描写によって、ゲーテが、「怠慢」や「中世のキリスト教的精神」を嫌い、古代ギリシャ精神を評価していることが分ります。
 
このようにゲーテの思想は、神に救いを求める他力的なキリスト教的人生観ではなく、努力によって神に近づいて行こうとするヘルメス思想的人生観に近いと考えられます。

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