2015/07/13    22:50

映画「バケモノの子」は、お釈迦様が悟りを開くまでを描いたストーリーだった!(ネタバレ注意)

11日に公開された細田守監督の最新作、映画「バケモノの子」が好調な滑り出しを見せている。「ぴあ」の出口調査によれば、公開初日のランキングでトップの満足度だったという。アニメ界をリードする監督の最新作で、以前から話題の多い作品ではあったが、実際の評価も上々のようだ。

主人公の成長や、異界探訪など、テーマが盛りだくさんの作品と言えるが、作品の主題を掘り下げていくと、主人公の成長の過程は、仏教の開祖であるお釈迦様(釈尊)が悟りを開くまでの道のりと重なって見えてくる。この論考では、作品のあらすじを紹介した上で、描かれている主なテーマを概観し、そして「主人公と釈尊との共通点」という論点に迫ってみたい。
 

渋谷から迷い込んだ「バケモノ」の世界

この作品のあらすじはこうだ。母親の死によって身寄りのなくなった少年の蓮が、家出して渋谷を歩き回るうちに「バケモノ」の世界から弟子のリクルートに来ていた熊の「熊徹」と出会う。熊徹に誘われてバケモノの世界へと来た蓮は、バケモノを束ねる「ドン」である「宗師」の座に名乗りを上げているこの荒くれ者の師匠のもとで、「九太」と名付けられて弟子になる。

剣士として腕を磨き、17歳になった九太は、ある日、もとの渋谷の街に戻ってしまう。図書館で出会った進学校に通う女子高生の楓に、勉強を教わることになった九太は、人間界で勉強しながら、バケモノ界とを行ったり来たりする。

アクションの最大の見せ場は、九太の師匠・熊徹と、同じく次の宗師に名乗りを上げている猪王山との決闘の場面。熊哲は死闘の末に勝利するが、父の敗北を受け入れられない猪王山の長男・一郎彦が熊徹に刀を突き刺して重傷を負わせる。九太と同様に人間界から引き取られた一郎彦は、人間のみが宿すという「心の闇」を抱えており、それに憑りつかれて、今度は九太を葬り去ろうとする。

 

「みんなのおかげで自分がある」という温かな気持ち

こうしたストーリー展開を前提に、作品のテーマを考えていくと、まずは「社会の様々な人々が子供を育てる」というメッセージが読み取れる。身寄りのない九太が、熊徹やその仲間、勉強を教えてくれる楓といった色々な人々に育てられ、立派に成長していく姿はとても清々しい。「人間は色々な人から、多くのことを学びながら成長していくのだ」「今日の自分があるのは、多くの人たちのおかげなのだ」という温かな気持ちにさせてくれる。

また、「心の闇」という現代社会の問題についても考えさせられる。最終盤では、一郎彦が、自分の生い立ちへの葛藤から「心の闇」を抱え、九太に嫉妬するかたちで暴走してしまう。しかしその前段から、この作品は、九太自身が昔の自分が抱えていた「心の闇」を見つけたり、両親の期待が重圧となっていると楓が吐露するシーンを通じて、「誰もがみんな、心の闇を抱えながら必死に生きている」というメッセージを伝えている。
 

主人公とお釈迦様のリンク

「バケモノの子」が描いているこうしたテーマは、それぞれが独立して意味のあるものだが、一方で個々のテーマの寄せ集めを見るだけでは、全体像が見えてこない。そこでこの作品のカギとなるのは、実は仏教とその開祖である釈尊なのだ。

この作品の設定などを詳しく検証していくと、先に挙げたテーマとは別のストーリーが背景に流れていることが分析できる。浮かび上がってくるのは、九太(蓮)の成長の過程は、釈尊が出家して悟りへと至るまでの道筋をなぞっているのではないか、という仮説だ。

ストーリーを追っていくと、まず蓮が家出するシーンでは、母の死後に蓮の親権を握った親戚たちに、蓮が反発する様子が描かれていく。ここで親戚たちが蓮に対して言い放つのは、「蓮は家系で唯一の男の子で、大切な跡取りだから、何不自由なく育ててあげる」という趣旨のセリフだ。

釈尊(ゴータマ・シッダールタ)はそもそも、釈迦族の王子、すなわち蓮と同じく家の跡取りとして生まれ、出家前まで王宮で何不自由ない暮らしをしていた。しかし、人生の疑問を抱き、家を出て、悟りを求めて修行することになる。「バケモノの子」では、蓮は出家する代わりに家出しており、悟りの道を求める代わりにバケモノの世界という魔界で、修行の道に入ることになった。

 

修行の道のりもそっくり

「師と弟子」の関係を見ても、共通点がうかがえる。釈尊ははじめ、当時の流行りだった様々なヨガ行者のもとで修行をしていたが、やがて師を見切って独りで修行に励むようになる。興味深いことに、「バケモノの子」では、九太(蓮)と師匠の熊哲が修行方法をめぐって喧嘩し、九太が「自分の修行は自分で決める」と宣言して熊徹の家を飛び出すシーンが出てくる。ここでも、九太の行動は、無師独悟を目指した釈尊のそれと共通している。

女性キャラクターの登場の仕方までそっくりだ。釈尊の場合は、独りで苦しい修行に打ち込んでいた中で、やがて村娘のスジャータからミルク粥の寄進を受ける。そこで、苦しみと楽しみの真ん中にこそ悟りへ至る修行の道があるという、「苦楽の中道」という真理を発見した。

九太もまた、熊徹に対して独りでの修行を宣言した後、人間界に戻ったところで、ヒロインの楓に出会っている。ここで蓮が釈尊の「苦楽の中道」の代わりに発見したのは、学問の道と武術の道の両方を修めるという、別の意味での「中道」の道だった。そこから蓮(九太)は人間界とバケモノの世界を行ったり来たりするようになる。
 

「一切衆生悉有仏性」を表現したラストシーン

さらに仏教思想との関連で最も多くのことを伝えているのはラストシーンだ。ここでは、釈尊が菩提樹のもとで悟りを開いた場面との共通項が読み取れる。釈尊は、目の前に現れてくる様々な悪魔、自分の「心の闇」である己心の魔との戦いに勝って、仏陀としての悟りを開くことになる。九太(蓮)の場合は、最後に、一郎彦が化けた巨大なクジラと決闘することになるが、このクジラは一郎彦の「心の闇」が巨大化してモンスターと化したものである。

そもそも、九太と一郎彦はともに人間界の孤児という境遇を背負っており、作中では九太自身も一郎彦と同じく「心の闇」に悩むシーンが登場する。つまり、九太(蓮)が「最終決戦」として戦う巨大なクジラは、九太自身の「心の闇」にほかならず、これに打ち克つということは、釈尊の有名な「降魔成道」と同じ意味を秘めていると言える。

ちなみにこのシーンでは、師匠の熊徹が剣術の神へと「転生」し、それが心に宿った九太(蓮)がクジラを倒すという場面になっている。もともとの作中の設定では、「神」として転生できるのはバケモノだけであり、心に闇を宿すことがある人間はバケモノの世界では暮らせないということになっている。しかし、この場面では、九太の父親役だったバケモノの熊哲が「神」となったことによって、九太(蓮)は「バケモノの子」から「神の子」へと位置づけが変わっていることになる。

この「神の子」という位置づけが、仏教との関連においては重要だ。「一切衆生悉有仏性」という言葉もあるが、仏教の思想の根本は、人間は誰もがその内に仏と同じ性質(仏性)を宿しているというもの。そして、正しい道に入って修行をすれば、誰もが仏陀となる可能性を持っているというものだ。

つまり、九太(蓮)が巨大クジラに勝利するこのシーンは、神(仏)と同じ性質を内に宿した九太(蓮)が、悪魔に打ち克って悟りを開くシーンということになる。ここから読み取れるのは、人間は誰もが心に闇を持つ存在だが、その闇に打ち克とうとすることで、誰もが仏の道を目指すことができるというメッセージだろう。

そして、バケモノの世界に九太が凱旋するシーンでは、熊徹の仲間の僧侶が「誰もが修行を積めば、九太のようになれる」というセリフを述べている。これこそまさに仏教の思想を伝えているセリフなのだ。人間は誰もが仏の道に入るポテンシャルを秘めていると、釈尊が自ら悟りを開いて人類に証明してみせたように、ここでは九太(蓮)が巨大クジラに勝つことによってそれを証明しているのだ。

 

本当の自分に出会うために

このように、主人公である蓮(九太)のストーリーは、釈尊の悟りのストーリーと共通していることは、疑いようがない。他の共通点としては、蓮の母が亡くなったように、釈尊も出生の際に母親を産褥熱で亡くしている。また、主人公の名前である「蓮」とは蓮の花のことであり、仏教では悟りを表す花とされている。蓮(九太)と釈尊との対比、そして仏教的なメッセージに「気づいてほしい」というシグナルが、作品の様々な箇所から見受けられる。

そして、こうしたメッセージに気づいてこそ、「バケモノの子」が本当に伝えている内容の意味が、心に響いてくるのではないだろうか。人間は誰もが、自分自身の心の闇と向き合い、戦うことによって、本当の自分に出会うことができる。それこそが、細田監督がこの作品を通じて現代人に伝えたいことなのかもしれない。

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