2015/01/22    14:00

​『テンペスト』に見る本物の魔術 シェイクスピアが描いた魔法の世界

シェイクスピアとヘルメス思想との関係を論じた前回に続き、今回からは一つひとつの作品に焦点をあてて紹介していきたい。

『テンペスト』は「嵐」という意味で、1611年に初演されたシェイクスピアの最後の作品として書かれている。
 

あらすじ

ナポリ王とミラノ王を乗せた船が大嵐にあい難破して、孤島に漂着する。その島には、12年前に弟に大公の地位を追われたプロスペラーと娘ミランダがいた。この島でプロスペラーは、学問を研究し魔術師になっていた。船を襲った嵐は、実は、プロスペラーが妖精エアルエルに命じた魔術の力によるものであった。

王の一行と離れ離れになったナポリ王子は、ミランダに出会い、2人は恋に落ちる。ナポリ王子は、プロスペラーに試練を課せれるが、見事に修行を終え、晴れて結婚が許される。

一方、ミラノ王はプロスペラーを殺害するために、島に住む邪悪な魔女とその息子キャリバンを使うが、エアリエルの力によって未遂に終わる。プロスペラーは魔術によって錯乱になるナポリ王たち一行を回心させ、和解する。
そして、王たちをナポリに送り、ナポリ王子とミランダは結婚式をあげることになる。
 

最高の魔術としてのヘルメス的魔術

ここに登場するプロスペラーについて、イエイツは次のように言っている。

魔術師プロスペラーは、ジョン・ディーがモデルと考えられている。
(フランセス・イエイツ、前野佳彦訳、『ジョルダーノ・ブルーノとヘルメス教の伝統』、工作舎、2010、720頁)

ジョン・ディーとはシェイクスピアの時代にいた有名な魔術師である。
 
この時代には色々な種類の魔術があり、それは次のように分類できる。
第一はフッチーノが研究した自然魔術で、元素的世界で働く魔術。
第二は天空魔術で、星辰の世界の魔術。
第三は宗教的魔術で、最高の魔術。
 
この第三の魔術はピコ・デレュ・ミランドーラの魔術といわれた。ピコとは、ヘルメス的魔術から大きな影響を受け、そこから神秘主義や自然魔術をユダヤ教カバラと結びつけた人物である。
 
第三の魔術は、超天的世界に働きかけるもので、自分を精霊の世界へ上昇させたり、精霊を自分のもとに呼び寄せられたりできる魔術である。これがジョン・ディーに受け継がれていた。
 
プロスペラーはエアリエルや精霊を自由自在に操っていることから、最高の魔術を使うことができたということが分る。
 
シェイクスピアは、『テンペスト』の中で本物の高度な魔術がいかに素晴らしいかを語るために、知的で道徳的なプロスペラーの魔術と、低級で醜い邪悪な魔女やキャリバンの魔法や妖術を対照的に描いたと考えられている。
 
また。プロスペラーは善い魔術師によって世界を改革する使命を持ち、徳を備えた君主でもある。そして、邪悪な魔術を取り除いて、悪から世界を解放する改革者として描かれている。
 
ところが、『テンペスト』が書かれた同じ時代に、ディーをモデルにしたもう一つの作品があった。それは、ペン・ジョンソンが書いた『錬金術師』である。何と驚くことに、こちらのディーは詐欺師として描かれている。そして、この作品は1610年の初演で大当たりをとったのである。
 
ディーを徹底的に笑いものにしたこの作品に、ディーの支持者であるシェイクスピアは黙って見過ごすことができなかったために、その翌年に『ペンテスト』を書いたのではないか、とイエイツは推論している。
 
もし、この推論が当たっているなら、シェイクスピア自身が、ジョン・ディーの魔術、すなわちヘルメス的魔術を知っていて、これを支持したと考えられる。
 
また、詐欺師の『錬金術師』が大当たりしたということは、当時、魔術を怪しく邪悪なものと考えている人が大勢いたということである。シェイクスピアは、そのような状況の中で、本当の魔術師の素晴らしさを、作品を通して訴えていたに違いない。
 
石原孝哉は次のように述べている。

この時代には、ジョン・ディーを中心としたヘルメス主義者に好意的なグループと、反ヘルメス主義者のグループがあったのです。それについて、イエイツはその図式も示しています。
(石原孝哉、『シェイクスピアと超自然』、1991、248頁)

この記述から、当時のイギリスでは、ヘルメス思想が多くの人によく知られていたことが分る。
 
さらに、石原孝哉は次のように言っている。

シェイクスピアが本当にヘルメス主義ないしオカルトティズムの信奉者であったかどうかは議論の余地があるとしても、当時の劇作家たちが、このような政治的、宗教的、哲学的対立とまったく無縁に孤高を守っていたとは考えられない。また、このように考えてはじめて、この時代に70作以上の劇が大なり、小なり超自然的なものを扱っているという事実を理解できる。(前掲書)

このような、ヘルメス主義者と反ヘルメス主義者の対立の中で、シェイクスピアはヘルメス主義者の方を擁護していたのであろう。いえ、擁護だけではなく、シェイクスピア自身がヘルメス主義者だったのではないだろうか。

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