2016/08/09    13:38

皇室と民主主義、憲法のあり方についても幅広い議論を

8月8日、午後3時――。天皇陛下のビデオメッセージが公表されると同時に、その内容についての速報が日本列島を駆け巡った。これまでに「生前退位」の意向を周囲に打ち明けておられた陛下が、自ら国民に対してご自身のお気持ちを表明された。
 
陛下は「次第に進む身体の衰えを考慮するとき、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じています」と述べられた。陛下は、憲法が定める国事行為や、宮中の祭祀のほかに、国民にいつも寄り添おうと各地を巡られ、身体の負担をおして海外へ「慰霊の旅」にも出られた。象徴としての務めを、命の限り果たさんという決意を、行動で示しておられることに疑問の余地はない。
 
一方で、いわゆる「生前退位」をめぐる今回の一連の出来事には、興味深い点がある。陛下のビデオメッセージについて、報道機関は「生前退位を強く示唆」などと報じたが、メッセージの中で、退位のご意向を陛下が明確に宣言されたくだりはない。現在の憲法では、天皇陛下が国の制度について踏み込んだ発言を行うことはできないため、「政治的発言」にならないように、メッセージの内容については内閣との間で何度も調整が行われたのだという。
 
だから、陛下のビデオメッセージが「生前退位」を示唆するものだと私たちが判断できるのは、陛下がそのような意向をお持ちだと報道機関が事前に世間に伝えていたからである。もし何の報道もないままで、今回のメッセージだけが流れていたとしたならば、お話の主題が、公務にあり方についてなのか、皇室の将来についてなのか、あるいは「生前退位」についてなのか、聴いている側が断言することはできなかっただろう。陛下のご意向が事前にキャッチされ、報じられ、文脈でできていたからこそ、今回のメッセージの意味を私たちは理解することができた。
 
それだけ、天皇陛下のご発言は大きく制限されているということである。「お気持ち」ひとつ表明することについてさえ、きわめて緻密な調整が必要となる。「それが象徴である」という言い方もできれば、「それが象徴としての望ましいあり方だろうか」と疑問に思う面もある。それは、自民党の憲法草案のように、もし天皇陛下を近い将来、正式に「元首」として位置づけるということになった場合の懸念だ。
 
天皇陛下を「元首」と定めるということは、陛下が国政に責任を負う立場にあると、対外的にも宣言することになる。しかし、元首となられる一方で、陛下の発言や行動の自由が今日のように許されないままであれば、それは、臣下の者が好き勝手なことをしても、最後には責任だけが陛下に及ぶという体制にもなりかねない。天皇陛下を「元首」として持ち上げる一方で、現実には慇懃無礼の政治が行われることがないか、懸念を持たざるを得ない。
 
一方で、もし天皇陛下が自由にご発言され、「元首」としてのお立場から、国政に影響力を発揮される場合には、民主主義のあり方との整合性についても考える必要が出てくる。
 
今回の陛下のご意向を受けて、皇室典範の改正や特別法の制定といった問題が、本格的に議論されることになりそうだ。しかし、「生前退位」めぐる制度上の問題だけに議論をとどめるのは、いいことだとは思われない。陛下がお気持ちを表明されたことをきっかけに、民主主義と皇室のあり方、憲法といった、日本の国のあり方についての根本的な議論が深まることを期待したい。

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