2015/05/14    10:00

【社説読み比べ】 政府の温室効果ガス削減目標 「世界に遅れるな」で揺らぐ日本経済

政府はこのほど、日本が排出する温室効果ガスを2030年度までに2013年度比で26%削減する目標案を発表した。

この目標案は、安倍晋三首相が6月の先進7か国(G7)首脳会議で国際社会に正式に表明する予定だ。温暖化対策をめぐっては、年末にフランス・パリで開催されるCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、新たな枠組み合意を目指した議論が行われる。

温暖化対策を考える上で、日本にとっては、原発の比率を含めた電力供給の未来像が重要な問題になる。政府目標には、2030年のエネルギーミックス(電源構成)における原子力の比率が20~22%を占めることが盛り込まれているが、これについて各紙が社説で論評している。
 

毎日・東京:原発依存をやめ、さらなる省エネを

毎日新聞は、「これでは4年前の原発過酷事故以前に逆戻りしてしまう」として、「原発回帰」を強く批判している。

国民の多くも、「原発に頼らない社会」を目標とした、積極的な原発低減策を期待してきた。その期待には応えていない。(中略)

私たちは、地震国日本にとって原発のリスクは大きすぎ、できるだけ早く原発から脱することをめざすべきだと主張してきた。経済的なリスクやエネルギー安全保障の観点から再稼働をすべて否定はしないが、原発を動かし続ける限り使用済み核燃料がたまり続けるという点も考えれば、原発は持続可能性のあるエネルギー源とは考えられない。

電源構成も、核のゴミの処分を将来世代に押し付けたまま現世代の経済活動ばかりを考えることの是非を抜きには語れないはずだ。

にもかかわらず、今回はそうした困難な問題を置き去りにしたまま原発温存を打ち出しており、同意できない。

電源構成の数値をはじく上での前提にも疑問がある。政府は再生エネを拡大できない理由として固定価格買い取り制度(FIT)や送電網の拡充などによるコスト高をあげる。確かに、電力料金の上昇は無視できないが、原発依存を減らすためなら、ある程度のコストを負担することもやむをえないのではないだろうか。さらに、送電網拡充の費用を誰がどう負担するかの議論も必要だ。
(毎日新聞 「社説:原発温存の電源構成 これでは納得できない」 2015/04/29)

東京新聞も、「再生可能エネルギーは抑え、原発利用を最大限に見込んだ」原発頼りの案では、「日本の未来は見えない」と批判している。

「原発は稼働から四十年で廃炉」の原則を守れば、三〇年には発電比率が14~15%まで下がる。ある委員は「時間がたてば新増設の話もできる」と言った。実際には、原発は建設を計画してから運転開始まで長い年月がかかる。新増設は「現実的な話」ではない。20%超の目標は、老朽原発を四十年を超えて稼働させる余地を残すための感が否めない。

再生可能エネルギーを導入すると電力料金が高くなるので、原発を使うという方針だが、これも疑問だ。計算には実際の原発ではなく、モデルプラントを使った。発電コストは三〇年で「一〇・一円以上」。各電源の中でもっとも安いが、「以上」と付くのは原発だけだ。「青天井ではないのか」と疑問を呈した委員もいたが、上限が示されることはなかった。

再稼働に際しては、個々の原発の発電コストの公開を求めたい。リスクがゼロではなく、被害は電力会社だけでは負いきれないのだから、当然の要求だと考える。
福島第一原発事故調査委員会(国会事故調)の黒川清委員長は「事故は『変われなかったこと』で起きた」と指摘した。有識者会合を見ていると、3・11後も政府は変わっていない。
(東京新聞 「【社説】15年後の電源 まだ原発に頼るのか」 2015/05/04)

 

朝日:「世界のバスに乗り遅れるな」

朝日新聞は、原発については触れていないものの、日本の省エネへの取り組みはEU諸国に比べて真剣さが足りず、世界の潮流に乗り遅れると批判している。工業生産が衰退に向かいつつあるEU諸国を基準として、日本のエネルギー問題を議論している同紙の主張からは、経済成長を快く思わない考え方が透けて見えるようだ。

すでに1人当たり排出量で日本より少ない欧州連合(EU)は、90年比で40%以上の削減を掲げている。それに比べて政府案のレベルは低すぎる。

実質的に国際水準に劣るのに、基準年を最近の年へずらしたため、そう遜色がないようにも見える。そんな姑息(こそく)なやり方で近年の無策をごまかしては、国際社会の信頼を失うだけだ。真剣に考え直すべきである。

最大の問題は、経済成長で当然のようにエネルギー消費が伸びるとしている点だ。原発回帰を進めようとするのも、つまりはエネルギー消費構造への切り込みが足りないからである。(中略)


全体の約3割を排出している産業部門の削減幅が、13年比で約7%というのは、あまりにも低すぎる目標である。

確かに産業部門は業界ごとに計画を立てて省エネを進め、90年比で約15%減らしてきた。だが、もっと余地があるはずだ。

経済産業省系の省エネルギーセンターによると、製造業では保温断熱材の劣化だけでエネルギーを10%も損しているという。複数の工程や事業所を結んでの省エネも遅れている。

欧米は経済成長とエネルギー消費の切り離しを積極的に進めている。例えば、電力会社などエネルギーの供給や小売りを担う事業者に一定の供給削減を義務づけることで、工場や事務所、家庭などの省エネ投資を促す政策が広がりつつある。
(朝日新聞 「(社説)温室ガス目標 政府案は意欲に欠ける」 2015/05/04)

 

日経:環境・エネルギー分野の新興企業育成を

日経新聞は、政府の目標案に及第点を与えつつ、「もう一段の改善に努めることは……挑戦に値する」と、企業などに省エネの取り組みを求めている。

26%は地球温暖化の抑止に向けた日本の国際貢献という側面では必ずしも十分とはいえない。しかし東日本大震災後の国内情勢を踏まえ、諸外国に比べ見劣りしない最低限の水準は満たした。(中略)

経済産業省の有識者会議のまとめでは、古い工場設備やオフィスの改修などで省エネの余地はある。経済合理性のある省エネ対策が資金調達力や情報の不足から実現しない「省エネの壁」の克服が大きな政策課題だ。

電力部門では化石燃料に頼らない電源確保が大事だ。再生可能エネルギーの拡充と原発の再稼働を着実に進めなければならない。

温暖化対策は経済成長との両立が大事で、省エネが縮み指向になってはいけない。米国で毎年公表される環境・エネルギー分野の新興企業100社のリストに日本企業は1社も入っていない。中国やインドは名を連ねる。電力自由化を通じて省エネビジネスなどで成長する新産業の育成を促したい。

今回の目標を実現しようとすれば、国民や企業が少なからずリスクとコストを負う。今後、目標を正式に決めて具体的な国内対策をたてるにあたり、国民的な議論をもう一段、深めるべきだろう。
(日経新聞 「(社説)最低限の水準満たした政府のCO2削減案」 2015/05/02)

 

産経・読売:他国の思惑に振り回されるな

産経新聞は、「排出削減の数値で肩を並べようとする発想が不適切」と政府の目標に疑問を呈した。「地球を守る理念」を目指すばかりでなく、国益を考えた交渉を行うべきだと主張している。

本当に実現可能な数字なのだろうか。

地球温暖化防止のために二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を、日本は2030年までに26%削減するという政府の目標案が示された。

あまりにも高く、極めて疑問だ。京都議定書の下で、6%の削減を引き受けた日本は、その達成に苦しみ続けたではないか。(中略)

政府は26%を「国際的に遜色のない数字」と自賛しているが、排出削減の数値で肩を並べようとする発想が不適切なのだ。

日本は京都議定書の前から省エネに取り組んでいる。米国などに比べると削減余地が小さい。

二酸化炭素を排出しない原子力発電が健在だった時期においても6%の達成が困難を極めた主因は、そこにある。

26%削減の内訳は、再生可能エネルギーと省エネに頼む部分が大きい。そこに不安の種を宿す。

高コストの太陽光発電など、再生可能エネルギーが、原発の発電量をしのぐ電源構成では、中小企業や一般家庭に経済負担が長期に重くのしかかる。

政府は国際交渉の場で、日本のこれまでの真摯(しんし)な取り組みと原発の活用が思うに任せない現状をしっかり主張すべきである。(中略)

地球を守る理念は美しい。しかし、その裏面には各国の国益をめぐっての冷徹な計算が存在している。これを忘れると国が傾く。
(産経新聞 「【主張】温室ガス26%減 高すぎる目標を危惧する」 2015/05/04) 

読売新聞は、「原発活用」を積極的に提言している。また、日本だけでなく、世界全体での排出量削減を考えるべきであり、そのためには、日本が省エネ技術による支援で貢献できると述べている。 

東日本大震災後、日本の温室ガス排出量は増え続けている。全原発が停止し、火力発電の比率が増えているためだ。

地球温暖化対策上、CO2を排出しない原発は、重要なエネルギーである。安全性が確認された原発を再稼働させ、将来的には新増設も進める必要がある。(中略)

協議では、自国に有利な枠組みにしようと各国の利害が絡む。

米国は25年までに05年比26~28%減、欧州連合は30年までに1990年比40%減とする目標を国連に提出している。

日本の削減目標は、これらと比べても遜色がない。政府は、温暖化対策に取り組む積極姿勢を世界に示すことができるだろう。

各国の削減目標も重要だが、忘れてはならないのは、世界全体の排出量をいかに減らすかという視点である。排出量が急増する中国など新興国・途上国での削減がカギとなる。省エネ技術による支援は、日本の有力な貢献策だ。
(読売新聞 「(社説)温室ガス削減 原発活用で高い目標に挑もう」 2015/05/02)

長期不況を脱出し、さらなる発展を目指そうという時に、経済活動にブレーキをかけるような規制は、日本の国益を大きく損なうものと言える。国際協調も重要だが、国民生活に直結する経済的な側面についても慎重に考慮すべきだろう。

原発をめぐっては、日本の石油の輸入相手国が集中する中東のみならず、中国の海洋進出によってアジアのシーレーンまでもがますます不安定になるリスクを考えれば、左翼メディアの「脱原発」論は、現実的ではないと言える。

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