2015/07/28    12:19

安保法案 「先の先の」大戦の教訓を考える 岡崎久彦氏を偲び

思想家の鶴見俊輔氏が、このほど亡くなった。「九条の会」の呼びかけ人の1人に名前を連ねていたということもあり、「彼なら安保法案の審議について何を言うだろうか」と惜しむ声が出ている。あるいは、国会前で反対の声を上げる若者の団体「SEALDs」について、鶴見氏の思想を受け継いで「自分の言葉で考えて行動している」と持ち上げる意見もある。

では反対に、今回の法案に賛成したであろう、もう鬼籍に入られた識者は、何と言うだろう。そんなことが気になった。真っ先に名前が浮かぶのは、昨秋、亡くなった、岡崎久彦・元駐タイ大使である。親米保守の論客として知られ、集団的自衛権を議論した安倍晋三首相の私的諮問機関のメンバーでもあった。

岡崎氏は「アングロサクソン(米英)について行けば、日本は100年は安泰」というのが持論で、このことから「アメリカのポチ」とまで揶揄する人もいた。確かにこの持論はいかにも楽観的に聞こえるだろうが、岡崎氏の生前の議論の中には、今回の法案について大局的に考える上で、示唆を与えてくれるものも多い。
 

日本が派兵を拒み、日英同盟は解消へ

ここでは、渡部昇一・上智大学名誉教授と対談した『尊敬される国民 品格ある国家』をもとに紹介してみたい。

例えば岡崎氏は、日本が先の大戦に突入していかざるを得なくなったターニングポイントはどこかと問われ、「その鍵を握るのは、日英同盟です。もし、日英同盟さえ維持していれば、日本は戦争をしなくとも済んだというのが私の観察です」と述べている。1902年に結ばれたイギリスとの同盟は、日本の日露戦争での勝利を後押ししたが、第一次世界大戦後の1921年に解消されている。

岡崎氏の見解は、もし日英同盟がその後も維持されていたならば、広大な大英帝国の経済圏と協力して日本は世界恐慌を乗り切ることができ、アメリカも日本が中国に持つ利権に横槍を入れることもなかっただろうというものだ。そうすれば、日本は国際社会での孤立を避けられたのではないかという。

それでは、なぜ日英同盟は破棄されてしまったのか。岡崎氏はヨーロッパを戦場とした第一次大戦で、日本が派兵をためらったのがその理由だと論じている。

日本が戦争を回避するラスト・チャンスは第一次大戦だった――私はそう考えているのです。

一九一四(大正三)年に第一次大戦が欧州で勃発した時、当初、西部戦線はドイツが圧倒的に優勢でした。イギリスとフランスは何とか持ちこたえていたけれど、いつ戦線が破られるか分からない。そこで、英仏が助けを求めたのが日本だったのです。彼らは日本に陸軍の師団を送ってくれと要請しました。開戦直後に英・仏・露のロンドン会議が行われるのですが、そこで討議されたのも日本の参戦問題でした。

ところが日本は、同盟国イギリスが頼んできても、応諾しなかった。ここが日英関係における決定的なターニング・ポイントでした。(前掲書)

同盟国のイギリスなどが助けを求めたのに対し、日本はそれに応じず、そのことが、歴史の流れが日英同盟の破棄へと向かう、大きな原因になったというのだ。しかも、第一次大戦後、日英同盟の解消を働きかけることになるアメリカは、戦時中には孤立主義を転換して参戦し、連合国の中での地位を得ていた。逆に日本は、第一次大戦のヨーロッパでの戦いに参戦しなかったことで、国際政治での立場が、この時から徐々に不利になっていったという見方ができる。
 

当時も議論された、”地球の裏側”論

それではなぜ、日本はイギリスの求めを断ったのだろうか。ここでの岡崎氏の説明は、現在の安保法案の議論とかなり通じる部分がある。安保法案では、自衛隊を派遣する範囲に「地理的制約」を設けておらず、このことで日本の自衛隊が、”地球の裏側”まで行って、米軍の援助ができるようになってしまうという懸念が出ている。

岡崎氏によれば、この「”地球の裏側”までは軍隊を出せない」という議論が、やはり第一次大戦の際にも日本国内で問題になったのだという。そして、当時の日本が「”地球の裏側”までは派兵しない」という結論を出したことが、日英同盟の破棄へとつながっていった。

では、日本はなぜ出兵を拒否したのか。それには一応、きちんとした名分はありました。

というのも、そもそも日英同盟においては、「日本の防衛義務はインドまで」という規定があったのです。第一次大戦はヨーロッパで行われているわけだから、日本には出兵の義務はない――これが日本の公式の立場でした。(中略)

陸軍が派兵を最終的に拒否した最大の理由というのは、「日本の国是は東洋の安寧を守ることにある」という点です。

もっと具体的に言えば、日本の軍隊は「祖国の防衛、国権の擁護」を本旨にしているから、「日本男児の血」を他国の争いのために一滴たりとも流すべきではない、ということでした――。このあたりの話は、九一年に起きた湾岸戦争のPKO派遣で起きた議論とよく似ています。(前掲書)

岡崎氏は1991年の湾岸戦争を例にあげているが、ここに出てくる論点は、それから25年経った現在の安保法案の議論に、そっくりそのまま通用するものだろう。”地球の裏側”まで軍隊が行けば、それだけ日本にとって”リスク”が高まるようにも感じられる。しかし、「”地球の裏側”までは行けない」と定めたことで、外交の柱となっていた同盟関係が、崩れていってしまうこともあり得るのだ。

また、「『日本男児の血』を他国の争いのために一滴たりとも流すべきではない」という陸軍の主張は、安保法案に反対する意見とうり二つである。「集団的自衛権は、他国を守る『他衛』であって『自衛』ではない」という反対意見があるが、岡崎氏の解説は、他国を援けることが、長い目で見て自国を守ることにつながるケースもあるのだと、教えてくれる。
 

誰も議論しない「先の先の大戦」について

岡崎氏の議論をまとめれば、日本が第一次大戦でイギリス側の派兵要請を断ったことが、日英同盟の破棄へとつながり、そのことが日本の孤立を招いて、第二次大戦へと向かう原因をつくったということになる。そして、「なぜ日本は先の戦争を防げなかったのか」という問いに対する岡崎氏の答えは、日本が第一次大戦でヨーロッパに派兵しなかったからという一点に行きつく。

このことが指し示す、現代への教訓とは何だろうか。それは、日本にとっては一見、何の関係もないように思われる海外での戦争であっても、何らかのかたちで貢献することが、時に日本の長期的な外交関係という大きな国益を守り、国民の平和な暮らしを守ることもあり得るのだということではないだろうか。だからといって、現在の同盟国であるアメリカが参加する戦争に、いつでもついていけばいいということにはならないが、安保法案に反対する意見に欠けている点を補う大事な論点だろう。

例えば、韓国を例に挙げてみよう。今回の法案に反対する意見の中には、「韓国軍はベトナム戦争で殺し、殺される現場に立たなければならなかった。日本もこのままでは、そうなるかもしれない」というものがある。しかし韓国は、休戦中とはいえ北朝鮮と戦争状態にあり、米軍との関係をつなぎとめておくことは死活問題である。韓国のベトナムへの派兵は、アメリカとの同盟関係を維持するための意味合いもあったということを、見逃すわけにはいかない。

今日の日本は、今後とも拡張主義を続けていくことが予想される中国を目の前にして、アメリカとの協力関係を維持していく必要がある。そして、集団的自衛権の行使を可能にすることは、アメリカとの協力体制を強化することにつながり、日米が共同で中国の脅威に対処していくことを可能にするものだ。

もちろん、日本一国で中国に対処できるのであれば、それに越したことはないことは明らかだ。しかし、自前の核抑止力を持たない現状では難しい。そこで、アメリカとの協力を維持しつつ、長期的な見地から防衛体制の強化を進め、自前で国防がまかなえるような体制づくりを進めていくというのが、望まれる政策ではないだろうか。

安保法案の反対派からは、法案が成立すれば、先の大戦の時のような軍部の暴走が起きるのではないかという不安を煽るような声も出ている。先の大戦の教訓が踏みにじられているといった意見もある。しかし一方で、岡崎氏の言うような「先の先の大戦」の教訓についても、思いをめぐらせている識者は、どのくらいいるのだろうか。

この国では、「戦争というのは悲惨だ」という、あたかも「戦争」の話といえば先の大戦以外にはあり得ないとでもいうような、一般化させた情緒的な議論が飛び交っている。そして、少しでも自衛隊の役割が拡大しようとするものなら、「あの戦争」を忘れたのかといった反対意見が出る。しかし、「あの戦争」だけが戦争ではない。そのことを認識しなければ、本当に国を誤ることにもなりかねない。

岡崎氏がご存命なら、安保法案の審議と世論の動きを見ながら、さて何とおっしゃるだろうか。

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