2015/06/14    12:00

イラクから考える安保法案 日本を守る責任があるのは、日本かアメリカか

やや旧聞に属するが、アメリカの安全保障の議論の中で、先月、国防長官のある発言が物議をかもした。

「イスラム国」と戦っているイラク軍が、西部のラマディで敗走したことについて、アシュトン・カーター国防長官が「イラク軍は戦う意思を見せなかった。数の面で敵をはるかに上回っていたが、戦わずして撤退した。過激派組織と戦うイラク軍の戦意に問題がある」と指摘。イラク軍の戦意の欠如を批判したのだ。

もちろん、この発言はイラク政府からの反発を呼び、オバマ大統領も火消しに追われた。しかし、カーター長官のこの正直な発言は、イラク軍とそれを助ける米軍との関係を考える上で、シンプルながら重要なポイントを指摘している。それは、イラクが自国の領土を守ることにしっかりと責任を負わないなら、アメリカがいつまでも支援を行う義理はないということだ。

6月1日付の米ニューヨーク・タイムズ紙は社説で次のように指摘している。

カーター氏のありのままの評価は、アメリカがいつまでイラクに武器を供与して訓練し、ISISやISILとしても知られるスンニ派のムスリム組織であるイスラム国に関連する対象への爆弾投下を続けるべきなのかという問いを、改めて提起した。イラク人が自国を守り、犠牲を払うことに、十分な関心を向けないのなら、なぜアメリカが代わりにやらなければならないのか、ということだ。
(New York Times "Who's Willing to Fight for Iraq?" 2015/06/01)

現在のところアメリカのイラクに対する支援は、イスラム国対策での空爆やイラク軍への武器の供与、兵員の訓練といったレベルにとどまっている。しかし、イスラム国の台頭を受けて、アメリカ国内ではイラクへの地上軍の派遣を求める声が高まっており、オバマ大統領はこのほど、イラクへの最大450人の増派を決定したばかりだ。

しかし、アメリカがいくらやる気を出したところで、当のイラクの方に戦う意思が欠けていれば、支援も続かない。本来なら、イラク領土の防衛に責任を持っているのはイラク自身であるはずで、アメリカには一方的にリスクを負って防衛を肩代わりする義務はないからだ。

日本では衆院で安全保障関連法案の審議が続いているが、このアメリカとイラクとの問題はたいへん参考になる事例だ。安倍政権は、集団的自衛権の行使を容認することを決め、自衛隊と米軍との協力関係を強化した。有事があれば、日米は以前よりも緊密な協力のもとで、脅威に対処することになる。

だが日米の協力も、日本側に自分たちの領土や国民の生命を守るという意思がなければ、根底から崩れ去ることになる。そもそも日本の防衛に第一の責任を負っているのは、日本人自身であり、アメリカではないからだ。

安保法案をめぐる野党側からの反論は、「アメリカの戦争に巻き込まれる」「自衛官のリスクが高まる」「法案は憲法違反の疑いが濃厚だ」というものばかりで、この国の安全をいかに守り、高めるかという視点が欠けている印象を受ける。日米の防衛協力での一体化が進み、アメリカとの”お付き合い”を以前にもまして考えなければならなくなることは確かなのだが、そうした話題ばかりが先行しては、肝心の安全保障についての議論を歪めてしまう。

日本を守る責任を負っているのは、他ならぬ日本人自身である。そうした自覚を持つことなく、「憲法9条があれば戦争に巻き込まれない」と主張する戦後体制派の野党が足を引っ張り続けるのならば、アメリカが「戦意がない」と嘆いて日本を見離す日が来たとしても、おかしくはない。日本の国防の責任を本質的に負っているのが誰なのか、その時に初めて気づくのなら、あまりに遅すぎる。

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