2016/05/16    08:00

トランプ氏の「安保タダ乗り論」に、「じゃあ、ハウ・マッチ?」ではいけない

「日本はアメリカに守ってもらっているくせに、十分な対価を支払っていない」と、米共和党の大統領候補であるドナルド・トランプ氏が主張している。それに対しては、「いや、日本もこれだけの額を払っている」と反論するのが通例になっている。
 
一般に「思いやり予算」と呼ばれる米軍の駐留経費として、日本は2015年度に約1900億円を負担。米軍再編経費の負担を合わせると、約7250億円になる。2004年のデータでは、米軍駐留経費のうち日本は75%を負担しているが、韓国は40%、ドイツは32%にとどまるという。日本がいかに、“思いやり”をもって、米軍の日本駐留を支えているのかが分かる。
 
トランプ氏が言う「対価」が、単純に米軍の駐留経費のことだとすれば、確かに日本はかなりの金額を払っている。「もっと出せ」と言われるのは、理不尽にも聞こえる。
 
しかし、ここで言う「対価」がお金の問題ではないとしたらどうだろうか。日本や韓国に駐留する米軍については、「人質論」というとらえ方がある。日本や韓国が攻撃を受ければ、両国に駐留している米軍も攻撃を受けることになるため、アメリカは自動的に両国の紛争に対処することになる。つまり、駐留米軍は日本や韓国に対して、「見捨てたりしませんよ」「有事の際には確実に守りますよ」という保証を与える役割を担っているという見方だ。現地に置かれる米軍は、いわば同盟維持を保証するための「人質」として置かれているという意味である。
 
注意したいのは、ここで実際に“人質”とさているのは、米軍という顔の見えない組織体ではなく、兵士という一人一人の人間だということだ。そして、一人一人の人間は、それぞれに尊い生命を持っている。それはその人が何人であろうと、どんな職業に就いていようと変わらない。
 
日本は確かに米軍の駐留費用というコストを負担しているかもしれない。しかし、紛争の際に失われるかもしれない米兵の生命や、その家族の悲しみを考えた瞬間に、この問題はお金によって解決できる類のものではなくなる。
 
日本では「平和と水はタダ」と長らく言われてきたが、しかし実際には、血を流す覚悟がなければ平和は守ることができない。自衛隊があったにしても、戦後の日本はこれまで、アメリカ人の「血を流す覚悟」のもとに平和を享受してきたのだ。そうした側面を考えたとき、トランプ氏の発言に対して、「もう十分にお金を払っている」と反論するだけでは、問題は根本的には解決しないということが分かる。
 
もっとも、アメリカにしても、国益にかなうという判断があったからこそ、日本に軍を駐留させてきたことは事実だ。まったくの慈善事業として他国の国防を担おうとする国などあり得ない。しかし、だからこそ、他国に国防を依存することの危うさを考える必要がある。アメリカの国益の判断が変わり、日本から米軍が撤退するようなことになった場合に、日本は自力で国を守ることができるだろうか。憲法9条の改正さえおぼつかない状況で、そうした覚悟は存在するだろうか。
 
トランプ氏の発言に対して、「ではいくら払えばいいのか」という議論をしていては、戦後日本の体質は一向に改まらないままになってしまう。

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