By. uni
2015/08/08    11:47

​有人宇宙飛行に必要なのは 「大義」と「国民の覚悟」

国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ輸送機に事故が相次いでいます。6月28日には、米スペースX社のファルコン9が爆発しました。NASAは輸送機の運用を民間会社と協力していますが、技術は開発途上のようです。しかも、4月にはロシアのプログレス59が軌道上で制御不能に。昨年10月には、英オービタル・サイエンス社のロケットアンタレスが打ち上げ時に爆発しています。輸送機打ち上げは3回続けて失敗したということになります。

そんな中、次回8月16日に打ち上げ予定となっているのが、日本の「こうのとり」です。本欄でも以前紹介しましたが、この「こうのとり」、過去4回の打ち上げにはいずれも成功。定時運行で世界的に絶大な信頼を得ています。宇宙飛行士の若田光一さんは帰国後の講演会で、「ISSでは、輸送船のスケジュールがずれて、地上からの輸送が遅れると、実験のスケジュールなどが全てずれ込む。そんな中で、日本の『こうのとり』は時間にきっちりと打ち上がるということで、絶大な信頼を得ている」と話していました。

ISSに滞在する宇宙飛行士は、「こうのとり」の到着を心待ちにしていることでしょう。無事に打ち上がることを祈るばかりです。
 

コストカットを目指すH3ロケット

このように、日本のロケットは信頼性がかなり高いのですが、ネックになっているのが打ち上げコストの高さです。これまで、日本の基幹ロケットであるH2A/Bロケットは、ほとんど官庁からの受注で打ち上げられていました。しかし今後は、官庁が発注を絞る見通し。採算をとるには、民間の商用衛星や他国からの受注が必須になります。そのため、今まで以上にコストを下げる努力が期待されています。

7月に発表された次世代ロケットH3では、打ち上げ費用を現在の半分の50億円に引き下げるために様々な工夫をこらしています。
 

①部品を標準化、民生化し、ライン生産を実現

できるだけ民間の部品を使い、標準化すること。これまでオーダーメイドだったものを、既製品に変える、というイメージでしょうか。宇宙開発の専門家が以前、講演で「JAXAがやるとどうしても高くなる。できるだけ技術を民間に移転して生産できるようにし、コストを下げたい」と話していたのを思い出しました。
 

②数値シュミレーションを導入

最もコストがかかるエンジン開発では、数値シュミレーションを初めて導入します。実際の燃焼試験前に、できるだけ問題を解消しておく、という方針のようです。
 

③打ち上げ時も簡素化

発射基地の種子島宇宙センターでは、打ち上げ設備はH2Bと同じものを流用します。受注から打ち上げまでにかかる時間が半減して、年間6回打ち上げられるようになるので、スケジュールの調整がより柔軟になります。また、機体の点検を自動化するので、打ち上げ当日に必要な人員も現在の100人から、3分の1から4分の1以下に減らせるようです。
 
こうしてコスト削減が上手くいけば、日本のロケットの信頼性、打ち上げまでの時間短縮が大きな付加価値になるでしょう。

ただ、他国は猛烈な勢いで宇宙開発を進めているため、油断は禁物です。
 

有人宇宙飛行の技術開発に躊躇する日本

さて、日本がいつ有人宇宙飛行を実現できるのか。これは複雑な問題です。

宇宙飛行士の大西卓哉氏が、毎日新聞のインタビューにこのように答えています。

−−日本がISSに支出する予算は年約400億円にも上り、政府内では、米国が目指すISSの運用延長や、有人宇宙開発への参加を疑問視する声が上がっています。

厳しい意見は知っています。ISSは多額の予算を費やしますから、多様な側面から時間をかけて議論することが大切です。そこで考えてほしいのは、ISSには金銭には換算できない有形無形の成果があるということです。ISSにおける日本は、実験棟「きぼう」や無人補給機「こうのとり」などの成果から、米国、ロシアに次ぐ存在になっています。ISSは、世界における日本の地位向上にも役立っていると思います。(中略)

−−現在、日本は人を宇宙へ送る手段を持っていません。いずれ日本も有人輸送力を持つべきでしょうか。

日本は有人飛行を実現する土台となる技術を既に持っていると思います。ISSに行く技術はこうのとりによって確立され、帰還についても日本の技術があれば十分に達成可能だと思います。しかし、ISS以降の世界的な宇宙探査の行方を考えると、日本独自の有人飛行技術が必要かどうかは少し悩みます。

今後のプロジェクトは巨大なものになり、日本単独ではなく国際協力で進めることになるでしょう。日本の宇宙技術への世界の信頼は厚く、きめ細かなモノづくりは高い評価を受けています。これからは日本が持つ技術の中で強みを発揮できる分野での貢献が大切になります。それらを生かせるのは、宇宙での居住設備の整備や、水のリサイクルなどの分野かもしれません。

(毎日新聞「Listening:<そこが聞きたい>宇宙開発の意義 大西卓哉氏」2015/08/05)


技術はもうあるのに、日本の有人宇宙飛行がなかなか実現できないのはなぜか。その大きなネックは、やはり予算です。

現在の日本の宇宙開発予算は約3000億円で、今のところ増える見込みはありません。有人宇宙飛行の場合、無人の場合より入念な試験が必要になるため、さらに莫大なコストがかかります。こうした資金面のネックが、日本の有人宇宙飛行への参入の妨げになっています。
 

「人命にかかわるリスク」をどう捉えるか

ある宇宙開発関係者は、このようにも話していました。

「日本が有人宇宙飛行に参入したとして、それが失敗して人命が失われた時に、国民がそのことを受け止められるだろうか。私は、今の日本では、開発を続けられなくなると思う」

今の日本では、命をかけて国を守った大東亜戦争当時の軍人を「英雄だった」ということすら憚られています。多くの国民が、「あの時代の人々は、政府のせいで行かなくていい戦争に行かされて、そして命を落とした」という認識なのです。

ましてや、緊急の用事がないにもかかわらず、宇宙に行くために巨額のお金を使い、命を落とした人がいたら、理解されるでしょうか。また、開発の継続が容認されるでしょうか。宇宙開発を推進した人々が非難される、という未来が容易に想像できます。

有人宇宙飛行にはやはり、多大なリスクを冒すだけの大義が必要になりますし、国民の理解と覚悟が必要です。

これまで有人宇宙飛行を成功させたアメリカも、旧ソ連も、そして中国も、宇宙開発の大義は「軍事大国にならねばならない」ということが第一でした。結局、有人宇宙飛行の技術は、その国の軍事技術を如実に表すことになるからです。

軍事独裁で国民を苦しめ、近隣国の脅威となっている中国が、宇宙開発大国の座を虎視眈々と狙っています。そんな中、世界の多くの国の信頼を集める日本が一定以上の宇宙開発技術を持っていることは、米・中・日のパワーバランスにおいても重要です。今後の日本の宇宙戦略は、こうした厳しい国際情勢に裏打ちされたものにしていく必要があるのではないでしょうか。

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