2015/08/21    07:00

朝日新聞の新たな「反省」を考える 「日本人の民主主義」をどうとらえるか

朝鮮半島から女性を強制連行して慰安婦にしたとして『私の戦争犯罪』という虚構の本を書いた吉田清治氏の証言の記事を、朝日新聞が取り消してから、1年以上が経った。初報から実に32年経っての訂正劇は、福島第一原発の事故当時の所長だった吉田昌郎氏の証言調書(「吉田調書」)をめぐる報道問題と合わせて、社長が辞任する事態にまで発展した。

朝日新聞が、慰安婦問題の火付け役の一つとなったという問題の大きさや、訂正の際に「他社もやっていた」「これからも変わらない姿勢でこの問題を報じ続けていきます」という論調で、往生際悪く開き直ったことを考えれば、当然とも言える。一方で、同紙はもともと強制連行を問題視していたにもかかわらず、途中から「女性の人権」に問題を拡大して論点をすり替えたが、こうした点は確かに「変わらない姿勢」が現在でも続いているようだ。この点では、朝日新聞と慰安婦をめぐる問題は、まだ終わっていないと言えよう。
 

安保法案でのささやかな反省の弁

その朝日新聞は8月13日付で、ある編集委員が「反省」を述べるコラムを書いている。今回は、慰安婦問題ではなく、国会で審議が続く安全保障関連法案について、世論を割るような報道ばかりを続けてしまったということについてだ。安倍晋三首相に、広くコンセンサスを得ようとする知恵が欠けているとした上で、コラムの結びは次のようになっている。

 もっとも、かくいう僕もただの傍観者ではいられない。世論もメディアの論調も賛否で激しく両極分解してしまった。かつてはあり、今回も世論にはきっと期待のある中庸を探る動きは乏しく、さらに後押しもできなかったことを反省する。
 民主国家にとって、左右に二極化する政治状況がいかに危険かは、1930年代の日本やドイツの不幸な歴史を持ち出すまでもない。だから読者のみなさんも考えてほしい。18歳投票になり、学校現場で近い将来、この安保法制を模擬国会的に議論するとしよう。そのとき、中高生たちには僕ら大人の両極分解の議論をまねてほしくはない。できれば反面教師にし、敵味方をレッテルばりする代わりに最適解を求める知恵を磨いてほしいと思うが、どうだろうか。
(朝日新聞  「安保法制異聞 両極分解が招く不幸」 2015/08/13朝刊 10面)

特定の政策を後押しする大手マスコミのキャンペーン型の報道は、今に始まったことではないが、筆の主の編集委員は安保法案で一方的な報道が続いたことが、民主主義の危機につながりかねないと憂慮している。「朝日が何を言っても、どうせ朝日だ」という声もどこかから聞こえてきそうだが、私はここで提示された問題意識そのものは大切なものに感じた。

マスコミによる「レッテル貼り」そのものは以前から存在したが、最近でも「反知性主義」や「立憲主義の破壊」といった言葉ばかりが出回っている。安保法案に賛成すれば、「戦争賛成派」ということになるそうだ。少しでも防衛力の拡充を主張すれば、「右翼」「軍国主義者」「ファシスト」というレッテルが待っている。脱原発に疑問を唱えれば、すぐに「原子力ムラの回し者」、学者なら「御用学者」と呼ばれ、まるで人民の敵であるかのような扱いを受ける。最近では、マスコミの偏向報道の問題に苦言を呈した作家や国会議員が、「民主主義をないがしろにしている」とやり玉に挙げられた。マスコミを批判することは、すなわち国民の敵だとも言わんばかりに。これらは、いわゆる「左側」からのレッテルだが、「右側」からのレッテルの例としては「売国奴」「国賊」など、言い方はいろいろとある。

原則論を言えば、民主主義の基盤は言論の自由であり、自由闊達な議論の中で多様な意見の中から、最適な答えが見つかる。しかし、議論がののしり合いにまで発展するケースが往々にしてあるならば、それをどう考えればいいだろうか。誰もが、罵倒合戦ではなく、健全な話し合いに参加できるためには、この国の民主主義はどうあるべきだろうか。
 

左も右も日本人

これは間違いなく、道徳やモラルの問題と言える。だが、そうした道徳やモラルは、どこから生まれてくるものだろうか。そうしたことを考える時に、偶然読んでいた、評論家の黄文雄氏の著書『世界が憧れる天皇のいる日本』の中に、参考になりそうなエピソードを見つけた。

時は、終戦直後、食糧難に列島が見舞われていた頃の日本。この部分の記述は、天皇と日本人との間の絆について述べているものだ。

 戦後、「一視同仁」という言葉はタブー用語にまではされなかったが、いわゆる進歩的文化人によって嘲笑の的として頻繁に引用されている。
 しかしこの言葉のいったいどこが悪いのだろうか。天皇から見れば、「臣民」であとうと「赤子」であろうと、国民でも「非国民」でも、良し悪しを超えて見る立場にあり、私を超えて「無私」という立場を貫いている。それは、「天皇制打倒」を狙う者に対しても例外ではない。
 敗戦直後、日本が食糧危機に直面した際、日本の左翼政党に率いられた人々が皇居の周りを囲い、「朕はタラフク食ってるぞ、ナンジ、人民、飢えて死ね」というプラカードを掲げ、米をよこせのスローガンを叫んでデモ行動を行った。
 侍従の一人が、「陛下、あれは共産党の煽動によるデモです」と言うと、昭和天皇は「あれも日本国民だろう」と答えたという。
(黄文雄 『世界が憧れる天皇のいる日本』 徳間書店 pgs. 175-176)

左も右も、共産党員も自民党員も、全員が同じ日本人であり、主義主張に凝り固まって罵り合いをするのは本来の姿ではないというご認識が、ここには表れているのではないだろうか。そして、国民同士が話し合って、この国をいかにいい国にするかを議論するのが、この国の民主主義のあるべき姿であるということも言えそうだ。それは、五箇条の御誓文で、明治天皇が皇祖皇宗に誓われた「広く会議を興し、万機公論に決すべし」「上下心を一にして、さかんに経綸を行うべし」という精神に通ずるものでもある。

つまり、①主義主張はさまざまありながらも、みんな同じ日本人である、②日本の民主主義は、この国をいかに素晴らしいものにするかを闊達に議論するものである、という認識を広く共有することが、日本が健全な民主主義を今後とも発展させていく上で、重要なことに思える。

一方で、ある時には、「地球市民」を名乗り、「日本列島は日本人だけのものではない」と述べていた首相もいた。そうした立場も存在するが、しかし、日本の国の政治に責任を持ち、それと運命を共にするのは、そもそもまずは日本人である。その日本の国の政治の場で、「日本が自己犠牲のもとに外国のためにどう尽くすか」という議論をしていては、噛み合わないことになる。
 

新たな皇室の「政治利用」?

「先の戦争の反省」という理由から、これまで「国家のためにどうすべきか」という議論は、個人の自由を制約するとしてタブー視するような論調が、続いてきた。「日本人として」という視点も、然りだ。だが、現に日本人として日本国という国家で生きている以上、日本人としてこの国がどうあるべきかを考えるという視点からの議論よりほかに、「日本の民主主義」は成り立つものだろうか。そして、その日本人の集まりとしての国家が、国際社会での当事者としてどのように自国の利益を守り、その延長として世界規模の問題に対処するかという視点から考えることが、「日本の民主主義」と両立する世界との関わり方ではないだろうか。

「日本人として、この国の政治をどうしていくか」という視点を持つことが、この国の政治を良くしていく上での出発点と言える。

ちなみに最近では、『戦争をしない国』というタイトルで安倍政権への反対色をにおわせつつ、今上天皇の足跡をまとめた本の広告が、大手紙にたびたび載っている。また、天皇陛下が15日の「全国戦没者追悼式」でのお言葉で「深い反省」に触れられたことで、陛下が安倍政権の「暴走」を憂慮されているのではないかと勘ぐる向きもある。もし本当に陛下が憂慮されているのであれば、きちんと受け止めるべきではあるが、一方で、私は直感として、安全保障関連法案を「戦争法案」と位置づけて葬りたい人々が、皇室を「政治利用」しようとする動きがあるのではないかと推測している。

今回の安保法案に反対する側からは「戦争法案」というレッテルが登場し、まるで法案の賛成派は戦争屋であるかのように世論を分断する宣伝がなされている。もし仮に、そうした人々が、「安保反対」のために天皇陛下の権威を立てようとしているとするならば、彼らには、「日本国民統合の象徴」である陛下のお心を推し量ろうとしている以上、「日本人として」という視点を大切にして「この国をいかに守るか」という観点からの議論も、積極的に行ってほしいものだと思う。

ややまとまりを欠いた論考になったが、「日本人による民主主義」という視点から、日本の政治を考え直す必要があるように思えるこの頃である。

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