2016/06/11    08:00

ヘイトスピーチ問題を生んだのは誰か?

在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチの問題が、再び議論を呼んでいる。
 
国会では「ヘイトスピーチ解消法」が先月、成立した。ヘイトスピーチについて、在日外国人やその子孫に対して、「差別的意識を助長し又は誘発する目的で」、危害を加えると予告する行為と規定。罰則のない理念法ではあるものの、国や地方自治体が人権教育に取り組むことなどを求めている。
 
この法律の施行を受けて、川崎市は5日に市内で予定されていた「川崎発!日本浄化デモ」について、公園の利用を許可しない決定を下した。主催団体がこれまでも過激な言動の集会を繰り返していたことから、今回もヘイトスピーチが行われる可能性が高いと判断した(道路使用は警察が許可したため、デモそのものは行われた)。
 
ヘイトスピーチの問題では、差別的な言動を行うグループの行動とその是非にばかりに注目が集まるが、問題の核心は、「マスコミという権力」といかに向き合うかにある。なぜなら、ヘイトスピーチを繰り返す団体と既成のマスコミの考え方は、無制限の「表現の自由」を求めているという点で共通しているからだ。
 
今回の問題の根幹にあるのは、表現の自由はどこまで許されるのかというテーマである。もし、表現の自由が無制限のものなら、たとえ差別的な言動であっても許されるはずだし、許されなければならない。それが、差別的な言動を行う団体が主張していることだ。
 
しかし、「表現の自由」にも、踏み越えてはならない一線がある。「朝鮮人だから」という理由で、彼らに「死ね」などと叫んで、良心は痛まないのだろうか。それが、今回のヘイトスピーチ解消法の趣旨だろう。
 
一方で、大手マスコミの側にしても、ヘイトスピーチを繰り返す団体と同様に、自分たちの「表現の自由」に対しては、いかなる制限もあってはならないという立場を取っているように見える。政府与党が報道の中立を求めれば、それさえも政府から不当な圧力があったと騒ぎになる。昨年の平和安全法制についてのテレビの報道姿勢をめぐって、民間団体が「偏向しているのではないか」と疑問を投げかければ、「表現の自由、ひいては民主主義に対する重大な挑戦」などと、色を成して反論するテレビ局もある。
 
しかし、既存メディアの言論は、その質に関わりなく、果たして、無制限に保護されるべきものなのだろうか。既存メディアはソフトな日本語を使っているために問題になりにくいが、実際には、ヘイト団体と同じように、偏見に満ちた言論を数多く発信している。ある大新聞の論説主幹はかつて、「安倍晋三の葬式はうちで出す。社是だからだ」などと発言していたことで知られている。首相は公人中の公人だから、ある程度の批判は許されるべきだが、大新聞が明らかな個人攻撃を目的とした言論を展開していたとすれば、問題があるだろう。
 
あるいは、国会前でのデモで「安倍に言いたい。お前は人間じゃない。たたっ斬ってやる」などと発言した大学教授のコラムを、堂々と載せている新聞もある。もしヘイト団体の言論が規制されるなら、特定の個人に対して「たたっ斬ってやる」などと「危害を加える予告」を行う“言論人”は、締め出されるのがフェアではないかと思われるが、そうした人士についても「表現の自由」を守るべきだというのが、左翼紙の良心のあり方らしい。
 
もっとも、こうした言論は「在日外国人」に対するものではないので、今回の解消法が想定する「ヘイトスピーチ」には該当しない。しかし、構図は同じだ。既存のメディアもヘイト団体も、「表現の自由は無制限であるべきだ」と主張し、それを盾にとって、誰かを公然と傷つけるような言動を繰り返している。その差は単に、言葉が上品かどうか、大企業かどうかということでしかない。どうやらマスコミにとっては、ストレートに「死ね」と言うのはいけないが、お上品に「おくたばり遊ばせ」と言うのなら許されるということらしい。
 
ヘイトスピーチに対して解消法をつくったからといって、問題の根っこは消えない。マスコミが「解消法がヘイトスピーチ解決の足掛かりになる」などとはやし立てているのは、何とも奇妙な光景である。まず襟を正さなければならないのは、言論の自由が無制限であるかのように振る舞ってきた、既存のマスコミの方なのだ。マスコミが無責任な自由を謳歌する土壌に、ヘイトスピーチが芽を出したという事実を、直視しなければならない。

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