2016/10/24    14:21

ノーベル賞に沈黙のボブ・ディランは「無礼で傲慢」か、それとも「彼らしい」のか

ノーベル文学賞を受賞したアメリカのシンガーソングライター、ボブ・ディラン氏が受賞について沈黙を続けている。この沈黙は不快感の表れなのか、それとも何か別の意味があるのか興味は尽きないが、このほど、文学賞をめぐって報道のあり方について考えさせられる出来事があった。それは、発言の切り取り方である。
 
賞の選考を行ったスウェーデン・アカデミーのメンバーは21日、国営テレビのインタビューでディラン氏についてコメントした。その内容を、ノーベル賞委員がディラン氏を「無礼で傲慢」とこき下ろしたと複数のメディアが伝えている。例えば、AFP=時事は次のように報じた。

今年のノーベル文学賞(Nobel Prize in Literature)に選ばれた米シンガー・ソングライターのボブ・ディラン(Bob Dylan)氏(75)が受賞決定について沈黙を続けていることについて、同賞の選考委員会であるスウェーデン・アカデミー(Swedish Academy)の一員が21日、ディラン氏は傲慢(ごうまん)だと非難した。

ディラン氏は、授賞を伝えるスウェーデン・アカデミーからの再三の電話に応じず、受賞決定に関して公の場でコメントもしていない。

同国のテレビ局SVTによると、アカデミーの委員を務めるスウェーデン人の著名作家ペル・ワストベルイ(Per Wastberg)氏はこうしたディラン氏の態度について「無礼で傲慢だ」と述べた。

この記事を読むと、ディラン氏を「無礼で傲慢」と批判しているスウェーデン・アカデミーの方こそが、実は「無礼で傲慢」なのではないかという疑問がわいてくる。まるで、アカデミー側が「世界一の賞をくれてやるって言ってるんだから、ありがたく受け取りなさいよ」とでも言いたげな雰囲気がある。
 
もちろん、こういう記事を読めば、ノーベル賞委員会に対して自然と反発したくもなる。例えば、私の場合であれば、こんな感じだ。



しかし、ディラン氏について話したノーベル賞委員の真意は違うところにあったようだ。重要なのは、先の記事がカットしてしまった、「無礼で傲慢だ」の後の部分のセリフ。この箇所があるのとないのとでは、ノーベル賞委員会に対する印象がまったく違うものになる。朝日新聞によれば、ノーベル賞委員のコメントは次のとおり。

今年のノーベル文学賞の受賞が決まった米国のミュージシャン、ボブ・ディランさん(75)が沈黙を貫いていることについて、同賞を選考したノーベル委員長のペール・ベストベリィ氏が21日、「無礼で傲慢(ごうまん)だ。でもそれが彼ってものだ」と苦言を呈した。

スウェーデン公共放送SVTのインタビューに応じた。ベストベリィ氏は、ディランさんの公式ウェブサイトから「文学賞受賞」の文言が21日までに削除されたことも認識しているとして、「予想していなかったが、彼は気難しいようだから驚きはしなかった」と語った。 

ノーベル賞委員はただ単にディラン氏をこき下ろし、「無礼で傲慢だ」と言ったのではなかった。ディラン氏の態度は「無礼で傲慢」に見えるが、それこそが彼らしいと、実は受賞者を評価していたのだ。それなら、問題発言でも何でもない。そこまで言うなら、むしろアカデミーの方が「見る目がなかった」のではないかとさきほど言った私は、実は無意味な批判をしていたのだ。

「でもそれが彼ってものだ」というフレーズが入るか入らないかで、ディラン氏を批判しているのか評価しているのか、記事の印象は180度変わってしまう。こうした切り取り方を工夫するだけで、デマもプロパガンダも簡単につくれてしまうことが、この一件からも分かる。テレビや新聞、ネットニュースといった、誰かの手によって編集された情報に日々囲まれている私たちとしては、事実がどのように切り取られて伝えられているのかを意識しながら、情報と付き合っていくことが大事だと実感する出来事だ。

私は当初、一連の出来事がノーベル賞委員会が「無礼で傲慢」だと暴く結果になったことで、ボブ・ディランに感謝した。今はむしろ、メディアとの付き合い方についてヒントをくれたことについて、感謝している。

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