2015/11/01    12:26

アメリカはもう戦えない?――広がる軍と市民との溝

「経済的徴兵」という言葉がある。オフィシャルな徴兵制を敷く代わりに、主に経済援助といった恩恵を“エサ”に兵員を集めることで、貧困層からの入隊を促すことを指す。日本のマスコミでは、安保法制が徴兵制の復活につながるのではないかという議論を野党などが盛り上げた際に、東京新聞が熱心にこの言葉を使っていた。
 
しかし、経済的な恩恵によって南部の黒人層から兵員を集めてきたアメリカでは、こうした制度でも入隊者が思うように集まらない状況が起き始めていると、英エコノミスト誌が報じている。
 
「次の戦争を誰が戦うのか」と題したこの記事は、陸海空軍および海兵隊のいずれも、9月末までの年度における新兵集めに苦戦したことを紹介。陸軍では予備役募集の目標数に2千人足りなかったという。
 
軍隊とアメリカ社会との間に隔たりができていることも問題だ。1990年には若いアメリカ人の40%が、両親のどちらかが軍隊での経験を持っていたが、2014年には16%になったと記事は指摘している。また、1981年には議会議員の64%が退役軍人だったが、現在では18%になっているという。
 
さらには、新兵募集の主力となる17歳から21歳のアメリカ人は2100万人いるが、そのうち約950万人は高校中退か計算機がなければ算数ができないために、初歩の知的基準を満たさない。残りの700万人は、太り過ぎか前科があるか、タトゥーが手か顔にあるために、こちらも基準外なのだという。エリートは軍隊から背を向け、陸軍の新兵のうち大卒は1割以下だ。
 
こうした数字が示唆しているのは、まさに記事のタイトルが物語っているように、アメリカで「誰が戦争を戦うのか」という問題だ。日本にとってみれば、戦後長らく自国の国防をアメリカに頼ってきたわけだが、それが立ち行かなくなる可能性がアメリカ社会の中に芽生えているということだ。
 
アフガニスタンとイラクでの戦争によって、アメリカに厭戦ムードが漂っていると言われて久しいが、それは、一時的な政策の変更という枠組みにとどまらず、軍事に対する国民の理解と支持が低落しつつあるという意外に根深い問題のように見受けられる。
 
海外での戦争に疲れたアメリカ国民は、「アメリカは日本を守るが、日本はアメリカを守らない」という日米安保条約の矛盾に、気づき始めている。来年の大統領選で保守派がスタートして押し上げている実業家のドナルド・トランプ氏もこの問題に言及している。日本が自国の防衛に主体的に責任を持たなければならない時期は、すでに訪れている。
 
日本では国防が自衛隊の仕事ということになっているが、本来的には「自分の国は自分で守る」という意識を持つことが、国民として必要なことだ。そして自衛隊は、国民に代わって国を守る任を負っている「国民の代表」であると言うことができる。こうした認識を取り戻さなければならないのは、日本もアメリカも実は同じなのかもしれない。本来、国防の責任を負っているのは、実は軍隊ではなく国民自身であるということに、日本人もアメリカ人も気づく必要がありそうだ。

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