2016/02/26    08:00

トランプ氏は「キリスト教徒ではない」――ローマ法王の発言と心の問題

ローマ法王の発言が、ちょっとした議論を巻き起こしている。このほどメキシコを訪問した際に、「どこであれ壁を築くことしか考えず、橋を架けることを考えない人間はキリスト教徒ではない」と発言したのだ。
 
もちろん、言葉の先には、アメリカ大統領選をかき回している、不動産王のドナルド・トランプ氏がいる。彼はメキシコとの国境に壁を築いて不法移民の流入を阻止し、建設費用をメキシコ側に払わせることを選挙公約にしている。当初はすぐに撤退すると見られたが、23日にはネバダ州で勝って、公認争いの予備選・党員集会で3連勝。共和党からの公認指名獲得に向けて、ひた走っている。
 
今回の選挙戦は、何より異様だ。普通であれば、民主主義はその国の国民のものだから、海外の人士が選挙について介入したり、表立ってコメントしたりするのは控えるものだ。当のアメリカ大統領さえ、世論に影響を与えないよう、特定候補については言及しないのが普通だ。
 
しかし、今回は違う。イスラム教徒の一時入国禁止をトランプ氏が主張したことに対して、イギリス議会ではトランプ氏のイギリス入国禁止を求める声が出た。オバマ大統領も「(トランプ氏は)大統領になれない」と発言した。「トランプ大統領」の誕生を世界が注視している。
 
こうした中での、ローマ法王の発言である。トランプ氏を念頭に「キリスト教徒ではない」とバッサリと斬った。アメリカはカトリックの国ではないが、ローマ法王はキリスト教の世界で最も影響力のある指導者である。その法王がわざわざ「キリスト教徒ではない」とコメントするのだから、よほどの不快感があるのだろう。トランプ氏が世界を分断してしまうのではないかという危機感がにじむ。
 
ここで気になったのは、「キリスト教徒ではない」と法王がトランプ氏を突き放した言葉そのものが、まさに世界に分断を生む言葉なのではないかということだ。
 
ある人に対して、「あんなヤツは信徒じゃない」と言うのは、とても簡単だ。しかし、歴史を振り返れば、カトリックとプロテスタントがともに、「あんなのは信徒じゃない」と相手を罵り合ったからこそ、血みどろの宗教戦争が起こり、多くの命が犠牲になったのではなかっただろうか。そしてイスラム教の宗派対立も、相手が正統な教えをくむ信徒ではないと糾弾することで生まれているのではないだろうか。アルカイダは欧米と協調する現地政府が「腐敗している」としてテロを繰り返した。
 
この発言から考えたいもう一つの点は、「誰かの信仰は地上の誰かの許可がなければ成立しないものなのか」ということだ。むしろ、信仰はその人が内心で神を信じているかどうかが第一の条件であって、たとえローマ法王の立場にある者であろうとも、それに口を出せるものなのかという疑問が湧く。
 
私はトランプ氏が本当にキリスト教徒といえるのかどうかについて意見できる立場にはない。しかし、信仰はまずその人個人の心の問題であって、それに他の人がたやすく口を出すべき種類のテーマではないことは分かる。今回の法王の発言について、作家の曽野綾子氏は産経新聞の紙上で、婉曲な形ながらも次のように疑問を提起している。

 法王は「もし彼(トランプ氏)がそのようなことを言ったのなら、キリスト教徒ではない」と言ったとも伝えられているが、キリスト教徒と認められなくても、神は決して人を見捨てない。それどころか、マタイによる福音書(9・13)は「わたしが来たのは、正しい人を招くためではなく、罪人を招くためである」とさえ言ったと記している。
(曽野綾子の透明な歳月の光 「法王とトランプ氏」 2016. 02. 24 産経新聞 朝刊7面)

トランプ氏自身は父親の影響もあって、『積極的思考の力』を著したノーマン・ビンセント・ピール博士の教えを青年時代から学んだと、著書に記している。何度もの破産や周囲の批判を乗り越えて不動産王としての地位を築き、大統領選に出馬した現在も、マスコミの批判を自身の宣伝に変えてしまう姿は、実にたくましい。個々の発言の是非はひとまず措くとして、その姿からは、彼が極めて強靭な精神力を持っていることが伺える。

ローマ法王は「キリスト教徒ではない」と切り捨てたが、トランプ氏がこれだけの強い心を持っている背景には、どのような彼なりの信念があるのだろうか。「彼が本当のキリスト教徒といえるかどうか」よりは、私はそちらの方に興味がある。

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