2015/12/05    13:00

過去を消そうとする学生たち――そして誰もいなくなった?

プリンストン大学元学長で、第28代アメリカ合衆国大統領のウッドロー・ウィルソン。


「親日」というのは、韓国では「売国奴」とほぼ同じ意味で使われる。かつて日本の統治に協力したとされる人々は国賊扱い。現代でも、「親日」の人が書いた本は「有害図書」に指定され、書いた本人は名誉毀損で訴えられたりもする。
 
何よりも問題は、過去の人々を現在の基準であげつらい、罪人扱いすることにある。たとえば「日本に協力したかどうか」という一点をリトマス紙にして、その人の人格や業績まですべてを裁こうという態度に不健全さがある。
 
しかし、こうしたことは、どうも韓国だけの問題ではないらしい。アメリカの大学でも、似たような問題が起きている。
 
最高学府の一つであるプリンストン大学でやり玉に挙がったのは、博士号を持った初の大統領になったウッドロー・ウィルソン元学長。プリンストンの精神を創ったとも言える彼だが、黒人をリンチして回ったクー・クラックス・クランを称賛するほどの人種差別主義者で、学長時代にも肌の色を理由に学内人事などを行っていたという。
 
そこで、「人種差別主義者」の名残りを追放しようと、学生がデモを始めた。座り込みを続けている彼らは、ウィルソンにちなんだあらゆるビルの名前を変え、彼の写真を学内から撤去することを訴えている。人種差別主義者の名誉を守り続けることは、現代にまで続く差別だという主張だ。25日には、これまでウィルソンを持ち上げてきたはずのニューヨーク・タイムズでさえも、学生に共鳴する社説を書いた。
 
私はウィルソン大統領が偉大だったなどと言うつもりはない。国際連盟は理想主義が過ぎて、空中分解してしまったし、日本が提起した人種差別撤廃の提案を、「全会一致でなければ決められない」と突っぱねたのも彼だった。また奴隷制度や植民地支配といった残虐な行為について、欧米諸国が真摯に振り返る姿勢が必要であることも確かだ。
 
しかし、デモ隊の主張には解せないところがある。現代に完璧な人間がいないように、過去にも完璧な人間などいなかった。過去に生きた祖先を悪人と決めつけて断罪すれば、キリがなくなってしまう。現代の基準で裁きを行なえば、その時代に生きた人々全員が、「罪人」となることだってあり得る。現代の私たちにできることは、過去に生きた人々の話の中から、教訓を学んでいくことだけだ。
 
人種差別主義者だったという理由だけで、ウィルソンの名前や功績をとにかく葬ろうとするのは、粛清の後に過去の写真からその人物を消し去ってしまう共産圏の光景と、重なって見える。さらに学生は多文化を理解する力を養うための講習を、教職員が受けることを求めているという。これはこれで思想の押し付けにならないのか、不安が残る。
 
時代をさかのぼれば、アリストテレスだって奴隷を使っていた。学生たちはいずれ、近代学問の祖でさえも、抹消しようとするのだろうか。さて、学問の祖やその業績さえも葬ったら、学問を教える大学という機関はどうなってしまうのだろうか。アメリカのトップ・スクールも、こうしたことは、学生に教えていないらしい。

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