2016/11/09    15:33

ロシアに新たに制裁は必要か

ロシアの人道を無視した止むことのないシリアのアレッポへの空爆で、EU加盟国の間ではロシアへの追加制裁を科すべきか否かが問われていた。しかし、10月20日のブルッセルでのEU首脳会議で9時間の議論の末に追加制裁をしないということなった。
 
そもそもEUが制裁に踏み切ったのは、ウクライナ紛争でのロシアによる親ロシア派への支援、そしてロシアが独断的にクリミアを併合したことが動機となった。当初、ウクライナ紛争を仕掛けた米国からの圧力もあって、EUは「経済」よりも、「政治」を優先してロシアに制裁を科したのであった。2年が経過した今、制裁による効果はないばかりか、EU加盟国の損害は甚大なものになっている。
 
昨年7月発行と幾分古い「Sputnik Mundo」によると、この制裁によるEUの損出額は1090億ユーロ(12兆円)、250万人の雇用の喪失と報じていた。そして、最もその被害が大きいのはドイツで、299億ユーロの損出、50万人の雇用喪失と伝えた。
 
また、同月・別日付の同紙(「Sputnik Mundo」)では、EU加盟国の国ごとの損出額と雇用喪失者数が報じられた。それによると、損出額の上位5か国はドイツ、イタリア、フランス、英国、スペイン、雇用喪失者数の上位5か国はドイツ、イタリア、スペイン、フランス、英国という順になっている。損出額及び雇用喪失者数でトップのドイツは昨年7月の時点で損出額299億ユーロ(3兆3000億円)、50万人の雇用喪失となっている。なお、多大の被害を受けたギリシャが記載から漏れている。
 
今年2月の同紙(「Sputnik Mundo」)では、制裁によるドイツは100万人以上が雇用喪失と報じた。
 
このような厳しい状況に置かれているドイツがロシアに対して新たに制裁を科そうとしているのである。特に、メルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)の多くの議員がそれを支持しているというのである。しかし、新たに制裁を科そうとすれば来年の総選挙でメルケル首相は致命的な敗退を期すのは明白であると「ターゲスシュピーゲル」紙が警告している。しかし、また、メルケル首相本人も制裁を科すことにはもう関心が薄くなっていると言われている(「Sputnik Mundo」)。
 
一方、連立政権を組んでいる社会民主党のシュタインマイヤー外相は新たに制裁を科すことには反対を表明している。また、「デア・シュピーゲル」誌は「2014年夏から続いているロシアへのクリミア併合、ウクライナ紛争によって科された制裁は2017年1月まで継続される。しかし、シリアの情勢から見て制裁を更に強硬なものにする必要があるのであろうろか?」と読者に疑問を投げかけた(「Sputnik Mundo」)。
 
同外相は、「シリア住民の置かれている状況が制裁によって改善されるとは思えない」しかも、「スイスで米ロが協議を重ねている現状では制裁を科す意味は薄い」と見ているのだ(「El Pais」)。
 
むしろ、外相は同党のガブリエル副首相兼経済エネルギー相と同様に制裁を徐々に解除して行く方向にもって行きたいとしている。この二人の姿勢は来年の総選挙を睨んだものでもあると思われる。制裁を徐々に解除する方向にもって行くことはロシアを前に一つの勝利となり、社会民主党への左派系や右派の国民からの支持を集める要因になると考えているようだ。それは、裏を返せば、メルケル首相の政党への支持者が減少することを意味するようになる(「Sputnik Mundo」)。
 
メルケル首相は移民問題で中央ヨーロッパそして東欧のEU加盟国からの支持を失い、経済政策面ではポルトガル、スペイン、イタリア、ギリシャがドイツ主導の緊縮策に従う意向がないことを見せ始めている。一方、彼女の党内では制裁追加への圧力もかかっている。孤立を益々強いられているメルケル首相である。

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