2017/03/10    10:22

ポスト安倍時代に始まる日本の「トランプ革命」

基本的に、政治というものは、国ごとの単位で論じられる。日本は自民党と民進党が二大政党だし、アメリカには共和党と民主党がある。イギリスは保守党と労働党だ。それぞれの国ごとに考え方の違う政党があって、それぞれの国という枠の中で、議論が戦わされる。

しかし、もはや今日では、国ごとの単位で政治を考えていては、世界の流れを見誤ってしまうのではないかという気がしている。それは、アメリカのトランプ大統領の当選――いわゆる「トランプ革命」――によって、それまでは「右か左か」だった政治の線引きが、大きくシフトしてしまったからである。

そのことを教えてくれたのは、ホワイトハウスでトランプ氏の首席戦略官を務める、スティーブ・バノン氏の発言を読んでのことである。選挙戦からトランプ陣営の要職を務めるバノン氏は、アドバイザーの立場でありながら国家安全保障会議(NSC)のメンバーになるなど、トランプ氏からの信頼が厚く、政権の「黒幕」とも言われている。

バノン氏や彼が経営してきたウェブメディアは、人種差別主義などと批判されることも多いが、彼の発言を素直に読むと、トランプ政権の目指している方向性が見えてくる。
 

「ダボスの党」への反乱

バノン氏は2014年にバチカンでの会議に参加した際、「国際的なティー・パーティー運動」と「ダボスの党」の戦いが各地で起きていると話した。つまり、マスコミと一体となって民意を無視するエリートたちと、彼らによる独裁や癒着に反対する国民との戦いが各地で起きているという意味である。バノン氏は次のように述べている。

彼ら(国際的なティー・パーティー運動)をひとつに結びつけるものは、中間層による中道右派のポピュリスト運動です。「ダボスの党」の言いなりにさせられることにうんざりした、世界中の働く人々による運動です。(中略)ニューヨークには、カンザスやコロラドの人々よりも、ロンドンやベルリンの人々に親近感をもつ人々がおり、彼らはこのようなエリート思想によって、世界がどのように運営されるべきかをみんなに指図しようとしているのです。

この言葉の中に、トランプ氏を大統領へと押し上げたエネルギーの本質が潜んでいる。本来なら、その国の政治家やエリートは、自分の国の同胞がより幸福に暮らせるように、国のかじ取りを担うべき人たちである。しかし、アメリカであれば例えばニューヨークに住んでいる彼らにとって、「同胞」はカンザスやコロラドといった、同じ国に住む人々ではない。むしろ、同じようなエリート思想を持つ、ロンドンやベルリンの人々だという。このように同胞たちのことを忘れてしまったエリートに対して、人々が「自分たちの手のもとに政治を取り戻そう」と起こした反乱こそが、いわゆる「トランプ革命」の真髄だと言える。

実際に、トランプ氏は就任演説の中で、真っ先に「権限を首都ワシントンの政治からアメリカ国民に返す」と述べている。トランプ政権の船出は、それまでアメリカの中央政界を牛耳ってきたエリートに対する宣戦布告によって始まったのだ。

そのことはまた同時に、トランプ氏に対して起きている反対運動は、一時的なものではなく、少なくとも彼が政権にある間は延々と続くことを意味している。なぜなら、トランプ氏と反対派との違いは、政策についての意見の違いではなく、根本的な価値観と政治の見方についての違いだからだ。

バノン氏は先月行われた全米の保守派が集う年次大会(CPAC)でのパネルディスカッションで、「協調主義でグローバリストのメディアが、ドナルド・トランプの経済ナショナリズムの政策にしつこく反対している」と、マスコミを批判した。それどころか、トランプ氏はあくまでも自分の考え方を推し進めていくため、「毎日が戦いになるだろう」とキッパリと宣言している。
 

「国民が第一」という”踏み絵”

こう考えていくと、イギリスのEU離脱の国民投票からトランプ氏の当選へとつながった勢いが、なぜさらに各国へと広がっていきそうなのかが分かる。世界各地で起きていることが、まさに「国民」対「ダボスの党」との戦いそのものだからだ。オランダでもフランスでも、国民第一を掲げる政党が支持を高めており、ドイツでも大量の難民を受け入れたことで、メルケル首相に対する風当たりが強くなっている。

トランプ氏に対しては様々な批判が飛び交っているが、「アメリカ・ファースト」という政権の旗印は、誰であれ真っ向から反対しがたいものがある。なぜなら、自分の国の国民を第一に考えることは、政治家やエリートにとって、本来なら当たり前の大原則だからだ。

「アメリカ・ファースト」という言葉に反対するということは、「自国民をないがしろにしよう」と呼びかけているのと同じ意味になってしまう。その点で、「アメリカ・ファースト」、「国民が第一」というスローガンは、それ自体が、「国民の利益と自分たちの価値観のどちらを優先するのか」という”踏み絵”をエリートに迫るものであり、誰もが表立って反対しづらい”錦の御旗”だと言える。

だからこそ、いわゆる「トランプ革命」の勢いは、今後も世界中に広がっていく可能性を秘めている。その戦いの構図はどの国でも同じだ。「ダボスの党」という共通の”敵”に対して、「国民が第一」という共通の踏み絵を突き付けるということである。
 

日本の「トランプ革命」はポスト安倍の時代?

それでは、こうした運動は、日本でも今後、広がるのだろうか。それを考えるヒントは、やはりバチカンでのバノン氏の発言の中にある。バノン氏は、EUに反対してきたイギリス独立党(UKIP)の主な敵は保守党で、アメリカのティー・パーティーの主な敵は共和党だったと述べている。意外に思われるかもしれないが、彼らにとって最大の敵は、思想的に反対にあるいわゆる左翼ではなく、自分たちと同じ保守でありながら、大企業と癒着するなどして堕落してしまった職業政治家だったということである。

バノン氏は、下院共和党のナンバー・ツーでありながら、2014年の中間選挙で党内の予備選の段階で落選してしまったエリック・カンター氏の例を挙げて、次のように述べている

対立候補が勝った理由は、とてもシンプルだ。中間層の人々や労働者の人々は、エリック・カンターのような人物が、国民の利益を毎日のように癒着した企業家に売り飛ばしていると考えて、彼らにうんざりしていたのだ。

つまり、本来なら自分たちの味方であるはずの保守の側の政治家に、国民がうんざりしてしまった時こそが、運動の発火点になるということだろう。

ただ、現在のところ、日本では、そうした運動が起きそうな目立った兆候は見えない。安倍晋三首相は現在においても、高い水準の支持率を維持している。2020年の東京オリンピックまで政権を維持しようと、党総裁の任期の延長も実現した。歴史認識の問題では、靖国神社への参拝を控える一方で、韓国に対しては慰安婦問題でお詫びを入れるなど、保守派を落胆させるような政策も見られるが、今のところ「安倍おろし」のうねりは起きていない。

また、「安倍政権のさらに右側に柱を立てる」と訴え、東京都知事選に出馬するなどした田母神俊雄・元航空幕僚長に対し、公職選挙法違反での逮捕に踏み切るなど、安倍政権には、混乱の芽は早めに摘んでおこうという姿勢も見られる。

しかし、自民党支配に対する反乱が起きるリスクは、至るところにくすぶっている。キッカケは経済かもしれない。デフレ脱却を掲げながら消費税を増税するといったアベノミクスの迷走ぶりに対して、国民の失望が広がっていけば、いずれ国民の不満が発火の時を迎える可能性はある。それは、なんらかの要因で安倍首相が国民から見限られる時かもしれないし、本命不在の「ポスト安倍」の時代に、国民が自民党の寿命を感じる時なのかもしれない。
 

「文明の衝突」への答えはあるか

このように、バノン氏の考え方を通して見てみると、世界で起きている政治的な流れやトランプ氏が起こした運動の意味合いが、ある程度、整理できる。その一方で、バノン氏の世界観には、そのままでは受け入れがたいものもある。

バノン氏はバチカンでの講演のなかで、「ユダヤ・キリスト教的な西洋は危機に瀕している」「私たちはイスラム教のファシズムに対する国際的な戦争のスタート点にいる」と述べている。キリスト教的な文明を、いかにしてイスラム過激派のテロから守るかという危機感が、バノン氏の考え方の根底に流れているようだ。

ヨーロッパなどで起きているテロの脅威を考えれば、バノン氏の危機感は理解できるし、テロ対策そのものは重要ではある。しかし、彼の考え方には、人種や宗教による差別を助長し、社会の寛容さを失わせかねない危うさもある。

確かに、「イスラム国」という脅威そのものは、消滅させることができるかもしれない。しかし、「イスラム国」を滅ぼしたとしても、その根底にある反西洋の考え方は存在し続けるだろうし、組織のかたちを変えて再び欧米に戦いを挑んでくるだろう。このサイクルをいかに断ち切るかについては、バノン氏の発言に答えは見当たらない。「ダボスの党」に対する反乱によって、国民の手に政治の実権を取り戻した先のビジョンについては、かなり長期的な視点での検討が必要だろう。

とまれ、バノン氏の発言から見えてくる世界観は、「トランプ革命」がどのような運動であるかを明らかにしている。この政治的なうねりは、アメリカ国内でどのような運動をつくっていくのだろうか。「国民」と「ダボスの党」との戦いは、世界中でどのように広がっていくのだろうか。そして、日本はこの流れから無縁でいられるだろうか。これらが、バノン氏の発言から見えてくる、これからの世界の政治の論点である。
(著者のブログより転載しました。)

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