2016/11/16    14:19

​どうなる?トランプ次期アメリカ大統領の外交――不安を抱くラテンアメリカ

トランプ次期米大統領の「元」ビジネスパートナーである、アルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領。


米国の次期大統領に、予想を覆してドナルド・トランプ氏が就任することが決まって、ラテンアメリカでは戸惑いを感じている。トランプ氏が行うであろうラテンアメリカへの外交政策が読めないからである。

彼の選挙キャンペーン中の特にメキシコ、中米、キューバなどからの違法移民を本国に強制送還するという発言や、メキシコとの国境に壁を設け、その費用はメキシコ政府に負担させるといった考え、そしてキューバの反政府派を支持する発言などからラテンアメリカの政治リーダー達に不安を投じている。

ラテンアメリカの中でトランプ政権の新外交の影響をもろに受けるのがメキシコである。米国にヒスパニックはおよそ5530万人いると統計されているが、その内の1100万人は在住許可を所持していない違法移民であると推定されている。

違法移民を一番多く米国に送り込んでいるのがメキシコである。その数は、全違法移民の58%と推計されている。それにグアテマラ、サルバドール、ホンジュラスが続く。トランプ氏は選挙キャンペーン中に、この違法移民を本国に強制送還させると発言しているのである。すなわち、1100万人を強制送還させるということになる。現実的に見てそれは実現出来ない数字である。この30年間でオバマ大統領が2012年に一番多く強制送還させたが、それでもその数は40万9000人であった(「Prensa Libre」「el espanol」)。
 
トランプ氏は米国への密入国を防ぐべく、メキシコとの国境3000㎞に壁を設けると発言しているが、既にその3分の1の壁は存在している。トランプ氏はこの壁の建設費用をメキシコが負担すべきだと主張している。メキシコ政府がそれを否定すれば、その費用としてメキシコ移民が本国に仕送り送金している総額が毎年300億ドル(3兆1200億円)にもなる資金をトランプ政権は差し押さえればよいという考えもあるという(「El Mundo」)。
 
また、メキシコの輸出の78%は米国向けで、米国からメキシコへの輸入は全輸入量の50%を構成している。しかも、メキシコにとって米国は一番の投資国である。トランプ政権が無謀な外交策をメキシコに押し付けるのであれば、メキシコのペーニャ・ニエト大統領は経済戦争も辞さない構えである。経済戦争になれば米国も打撃を受けることになるが、メキシコの方がその損害はより大きくなると推察されている。例えば、米国で販売されている自動車の多くが生産コストが安いメキシコで生産されている。仮に、双方で経済戦争になれば、メキシコに進出している日本の自動車メーカーやパーツメーカーもその被害を受けることになる(「el espanol」)「El Pais」)。
 
このような事態を懸念して、メキシコの通貨ペソは11月9日から三日経過した11日までに対ドルレートで15%下落しており、回復の材料になりそうな話題は当面見られない(「El Pais」)。

ペーニャ・ニエト大統領はトランプ氏が大統領に就任する前に二度目の会見を持ちたいとしている。最初の会見はトランプ氏を今年9月にメキシコに招いて彼の挑発的なメキシコを批難する暴言にメキシコ政府の断固たる姿勢を国民の前に示すことをペーニャ・ニエト大統領が狙ったものであった。
 
しかし、トランプ氏は記者会見の席で「国境の壁の建設費用のことについてペーニャ・ニエト大統領は触れなった」と発言した。一方の、ニエト大統領は「メキシコ政府はそれを払わないと彼に明確に伝えた」と発言していたことから、双方の発言が矛盾することになった。それは、ニエト大統領の国民からの支持の下降に更に拍車をかけることになってしまったといういわくつきの会見だった。
 
メキシコの不安を和らげる味方として、ペルーの国際政治専門家シアッパ・ピエトゥラ氏が「ペルーは姉妹国家としてメキシコを支援する」と発言している。そして、「彼(トランプ氏)が言っていることを実現させるとは思えないが、ペルーはメキシコと連帯した行動を取るべきだ」と述べた。また、「トランプ氏はメキシコに関しての発言はもっと慎重であるべきだ。何故なら、壁を建設することなどできることではないからだ」と述べて同氏の暴言に釘を刺した(「RPP」)。
 
メキシコと同様にトランプ政権の外交に不安を抱いているのがキューバである。両国の国交が断絶されてから11人の米国大統領による政権が続いたあと、昨年、オバマ大統領によって両国の国交が復活し、既に米国からの観光者も急増している。米国からの投資も始まっている。しかし、トランプ氏はカストロ兄弟の独裁政治体制に反対しているキューバからの移民らとも接触があり、対キューバ外交を見直したいとしている。
 
キューバ政府が特に懸念しているのは米国の両院にはカストロ政権下のキューバとの国交復活と経済発展協力に反対している議員が多くいて、彼らが議会で両国の関係回復について審議し、仮に反対票が過半数を占めた時にトランプ氏が大統領の拒否権を行使するかということにキューバ政府は強い疑問をもっているという。ただ、今回の両院選挙でキューバとの関係進展に賛成の議員が上院で4人と下院で10人増えたのはプラスだと、キューバ政府は見ているという(「BBC」)。
 
キューバからの移民が多いマイアミでは、米国籍のキューバ人の63%はキューバへの制裁の解除を望んでいるという(「BBC」)。
 
米国からの外交姿勢は出来るだけ早く明確にする必要がある。ロシアが改めて軍事基地をキューバに開設する方向へと積極的に動いているからだ。
 
昨年のアルゼンチンはそれまで12年間続いた反米政府から180度方向転換して欧米寄りのマクリ新政権が誕生した。マクリ大統領はヒラリー・クリントン氏が勝利すると確信し、彼女と夫のクリントン元大統領とも親しい関係を維持していたことから、米国の外交はオバマ政権の延長と考えて安心していた。しかし、トランプ氏が大統領になることが決まって、新たに両国の関係づくりをせねばならなくなっている。
 
マクリ大統領は1980年代にトランプ氏と共同で不動産事業に参加する予定でいたことから、両氏はお互いに面識のある間柄で。ゴルフや他のレジャーも一緒に楽しんだ経験もある。しかし、マクリ大統領は当時トランプ氏に苦い思いをさせられたようで、彼との共同事業から撤退した。今度は政治的に新たな関係づくりが必要となっている(「El Pais」)。
 
ブラジルもルセフ前大統領が解任されて、テメル大統領の政権になっているが、この新政権もオバマ政権の後押しがあって実現した。トランプ氏が大統領に就任してから新しい関係作りが必要となっている。ブラジルはBRICS加盟国で、10月のインドのゴアで開催された首脳会議で、BRICS加盟国と取引進展の道が開けている。ブラジルがテメル政権下で折角欧米寄りの外交に切り換えたのをトランプ政権が無駄にすることはないと推察される。
 
コロンビアは南米の中でも唯一長年米国との関係の強い国である。サントス大統領はコロンビア革命軍との和平交渉案が国民投票で支持を受けなかったことから、新和平案に取り組み、その合意が結ばれたばかりである。それと平行して第2の左派ゲリラ民族解放軍との和平交渉も再開された。クリントン候補はこの和平交渉に当初から全面的に協力する姿勢を示していた。サントス大統領はトランプ政権もこの和平交渉を支持してくれるものと信じているとしている。
 
ベネズエラは1999年にチャベス政権が誕生してから米国との関係は安定していない。オバマ大統領はベネズエラ政府の要人らの米国に預けてある資金の凍結などの制裁を実行しているが、ベネズエラ国内で過半数の議席を握る野党の動きを間接的に支援しているだけに留まっている。

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