2016/09/12    15:39

ラッキーな男、プーチン大統領

ロシアの外交の多くはプーチン大統領の独断的な判断で決めたように思える。それに対して、ロシアの報道メディアから彼の判断を批判する意見は、彼の反発を恐れて存在しない。これが、プーチンをして天才的な戦略を編み出すのである。
 
プーチン大統領は今も世界で最も影響力のある人物のひとりだ。1999年に首相に就任、2000年から大統領を2期務め、2008年に首相。そして、2012年から大統領に復活し、任期が6年となって2018年まで大統領職を続けることになる。現在の指導力から推察すると、2024年まで彼の政権が続きそうだ。
 
プーチンが目指すものはソ連の復活である。ソ連が世界から享受していた畏敬と与えた恐怖を取り戻すことである。その目的達成には、現在のロシアは彼にとってやり易い状況にある。何故なら、報道メディアは彼の意向に添うう形で統制されているからである。彼の報道メディアに与える影響は絶大であるが故に、彼に服従しているというわけだ。よって、公にされる世論の意見も歪められたものになる傾向にある。それは、欧米で世論に左右されながら政治家が政治を行なわねばならないのとは大変な違いだ。
 
 そもそも、国家予算の3分の1が軍事費に充てられていることに国民から抗議がないこと自体が不思議である。人口1億4000万人の内の14.1%が貧困層だという。2014年には12.6%であった(「El Pais」)。

4000万人が年金受給者であるが、平均支給額はユーロ換算で180ユーロ(21600円)であるが、1500万人は84-125ユーロ(10000-15000円)しか支給されていないという。しかも、その3分の1は暖房、電気、水道もない生活を余儀なくさせられているそうだ(「El Confidencial」)。 

この社会事情において、国民からの不満を伝える声明はないのか? しかし、それを実行すれば検挙される可能性が強い。報道メディアも「プーチンや彼を取り巻く連中への批判や、彼らをスキャンダルに巻き込むことは避けることが賢明である」と「Kommersant」の記者が語ったという。何故なら、彼らを批判すれば、彼らのポストが飛ぶからである。プーチンがテレビ局の視聴率を操作することは容易だという(「El Confidencial」)。
 
以上からも推察できるが、プーチン大統領への国民からの85%とか90%の高い支持率というのは操作されていると考える方が賢明である。現在のロシアでは「プーチンは考えたことを言い、言ったことを実行する」と言われている。それが出来るのも、現在の彼は政府そして軍部を掌握し、報道メディアの言論も統制し、国民からのマニフェストも厳重に管理しているからである。
 
彼の最近取って来た外交を以下に列挙してみる。その根底にはかつてのソ連を彷彿させようとするプーチンの野望が必ず窺えるのである。
 
● ウクライナのロシア支持派が多くいるドンバス東部地方をプーチンは軍事的に支援している。ロシアにとってウクライナは歴史的に自国の領土の一部のようなもので、それを米国が主導して欧米圏に組み入れようとすることをプーチンは絶対に容認できないからである。彼は必要とあらば戦争をしてでも東部地方をロシア圏に留める構えだ。
 
● ウクライナの自治領であったクリミア地方では首都のキエフで欧米を支持する暫定政権が誕生すると、ロシア人が多く住んでいるクリミアの議会は住民投票をしてロシアへの併合を望んだ。それを、即座に受け入れたプーチンは独断的にクリミアを併合した。そして、現在ロシア本土とクリミアを結ぶ橋がプーチンの友人が経営する建設グループ「Stroygazmont」によって建設されている。
 
● クリミア併合で欧米のロシアへの制裁はウクライナへの軍事介入による制裁に加えて更に増加した。しかし、注目されるべき点は、この制裁によってヨーロッパからロシア向けの輸出は13%の減少であるにも拘わらず、米国のロシア向け輸出は3.5%の減少に留まっているだけである(「El Pais」)。
 
● プーチンはリスボンからウラジオストックまでの遠大な共同市場の構築を望んでいたが、この制裁によって、方向転換をしてアジアに目を向けるようになった。それが、中国との連携協定となった。2018年から2030年までロシアは中国に天然ガスを供給し、中国はロシアの農業開発や鉄道網の発達に巨額の投資をするというものである。しかも、ロシアのミサイルシステムS-400や戦闘機Su-35を含めた兵器の中国への輸出もその中に盛り込まれている。S-400は中国沿岸に配備されて尖閣諸島をミサイル攻撃が出来る体制にすることになっているという。
 
● ロシアと中国を結び付けてはならないという米国の外交の鉄則がここで破られたことになる。これはオバマ外交の失策である。プーチンはこれを機会に、さらに東南アジア諸国連合(ASEAN)に接近している。その架け橋の役目を果たしたのはベトナムである。ベトナムはソ連時代から60年以上の繋がりをもっている。また、米国もベトナムとの経済関係の強化を進めている。
 
● プーチン外交の一番の決定打はシリアへの軍事介入である。昨年9月に、ロシアがシリアに直接武力介入した。劣勢になりつつあったシリア政府軍の支援に武力をもって参加した。ソ連とシリアは1980年代から軍事同盟を結んでおり、シリアのタルトゥース港はロシアが地中海に持っている唯一の軍港である。この軍事介入によって、ロシアはラタキア港を第2の軍港と決めた。そして、ラタキアにある飛行場を整備して大型輸送機が離着陸できるようにして、ロシアは空と海からアサド政府軍以外を全て敵と見做して空爆した。これによって、シリア紛争の様相は一変し、米国もロシアを無視してはシリア紛争を解決できない状態にした。そして、今ではシリアはロシアとイランそしてトルコの意向が反映されるようになる方向に向かっている。米国の影響力は減少している。
 
このロシアのシリアへの武力介入でイスラム国への空爆も実行した見返りに、エジプトでロシアの旅客機がテロ爆破されて乗客ら224人が犠牲者となった。欧米だと、この規模の事件が起きれば、政府の外交政策に報道メディアそして世論から激しい批判が起きているはず。しかし、メディアが統制されているロシアでは事件が報道されただけである。
 
● もともと、ソ連はエジプトのナセル大統領の時代にエジプトと強いパイプを築いていた。しかし、サダト大統領になると、エジプトは米国寄りになった。その為に、エジプトに駐在していたロシア軍人はシリアにその本拠を移した。しかし、ソ連が崩壊すると、ロシア軍人も引き揚げて、シリアは孤立した状態になっていた。そこで、アラブの春の旋風が起きると、ムスリム同胞団がシリアを支配しようとした。それに米国やトルコが便乗しようとした。しかし、プーチンは嘗て同盟関係にあったシリアを見捨てるわけには行かないとして介入の時期を窺っていた。それに加えて、イランとその分子ヒズボラがロシアに協力した。アサド大統領の身の振り方が今後のシリア紛争解決の目安の一つであるが、プーチンがクリミアそしてウクライナ東部と同様に地政学的にも重要なシリアを手放すことは絶対にない。
 
● トルコとの問題も解決の道を歩んでいる。8月9日のエルドアン大統領のロシア訪問で両国の関係改善も確認され、トルコへのロシアから天然ガスの供給が米国の干渉でこれまで中断していた。しかし、今回のエルドアンのロシア訪問でそれが建設されることを双方が確認した。エルドアン大統領が米国を無視してでもプーチンのロシアとそしてその背後にあるユーラシア経済同盟や中国との関係強化に価値ありと見たのである。
 
● ナセル大統領以後、ロシアはエジプトとの関係が冷めていた。一方、米国はムスリム同胞団が推したムルシー前大統領をシシ大統領が弾圧したことに民主化に欠けると批判して、エジプトに常に提供していた軍事支援などを保留にしていた。その隙間に、プーチンはシシ大統領に接近して関係回復に成功し、ロシアからの兵器の輸出も決めた
 
● ロシアは軍事用トラックも生産しているカマズ社のモロッコへの進出をヨーロッパで他社に先駆けて決めた。ヨーロッパの主要トラックメーカーも進出を検討していた。しかし、ロシアはプーチンの考えが直ぐに実行に移されるという迅速さをもっている。この進出を餌にして、ロシアはモロッコに対してポリサリオ戦線と独立問題で争っている西サハラ紛争の解決に協力する姿勢を示した。西サハラはリン鉱石の産地でもある。また、モロッコはテロの巣窟のひとつでもある。
 
これら全て、ロシアの動きはプーチン大統領の独断によって遂行されたものであると見てよい。そこには、世論を無視でき、報道メディアも統制しているという背景があるからである。また議会もプーチン支持派が多数を占めているから議会での裁決も問題ない。
 
プーチン大統領はラッキーな国家指導者である。しかし、その代償として国内の経済は苦しく、特に、貧困者が彼の独断の犠牲になっている。彼らのこの苦しみはロシアのメディアは報道しない。

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