2017/03/11    08:30

トランプ大統領の「貿易戦争」と中国崩壊

アメリカのトランプ政権が、自身の掲げる貿易政策の見直しへと、歩みを進めている。

1日に議会に提出した通商政策についての年次の報告書では、世界貿易機関(WTO)の決定がアメリカの国益を侵害していると判断される場合、これに従わない可能性があると表明した。WTOの裁定に従うのではなく、アメリカは独自の方法で、不公正な貿易と戦うと宣言したということである。

アメリカの国内法は、自国の貿易を補助金などで不当に有利にしている国に対して、制裁として高い関税を課したり、輸入を制限したりすることができるとしている。トランプ大統領は選挙中に「メキシコには35%、中国には45%の関税を課す」などと述べていて、今後、実際にこうした関税強化の動きが加速する可能性がある。

すでにトランプ政権下では、中国製の鉄鋼製品や道路の舗装に使われる資材が不当に安く売られていることで、アメリカ企業に影響が及んでいると認定されており、それぞれに制裁として関税がかけられることが決定している。

トランプ大統領の通商政策については、大統領当選の前から「貿易戦争」が起こるのではないかという懸念が高まっていた。アメリカが関税を課すのに対して、今度は相手国も関税を課して、世界の貿易が縮小していってしまうのではないかという懸念である。「一方的に関税を課しても、貿易には相手がいることを忘れてはいけない」という批判だ。日本のマスコミもこうした意見を、連日のように伝えている。

しかし、関税合戦による貿易戦争は、本当に起こるのだろうか。そして、トランプ氏はなぜ「貿易戦争」のリスクを冒しながらも、自身の掲げる通商政策を貫こうとしているのだろうか。
 

「貿易戦争」は本当に起こるのか

こうした点について考えるうえで、興味深い意見が、2日の米ニューヨーク・タイムズ紙に載っていた。筆の主は、大統領選でトランプ氏と民主党のバーニー・サンダース氏の両陣営に通商政策のアドバイスをしていたというアラン・トネルソン氏。同氏は寄稿の中で、「貿易戦争」を懸念する声について、次のように述べている。

貿易戦争に警鐘を鳴らす人々は、成長も経済発展も雇用もアメリカに依存し切っているような国が、自分たちの最大の顧客であるアメリカを攻撃するなどと、考えているようだ。

貿易戦争の引き金を引けば、トランプ氏が掲げる経済成長もおぼつかなくなるという警告が、アメリカの論壇にはあふれている。だが、アメリカが貿易相手に依存している以上に、貿易相手の方がアメリカに依存しているのではないかというのが、上記の主張だ。

トランプ氏を批判する側は「貿易には相手がいるのだから、一方的に関税を課すべきではない」とたしなめる。しかし、この意見でいけば、「相手がいる」のはお互い様だということになる。トランプ氏が一方的な関税をかけたとしても、自動的に相手が報復に出るかは、その時にならなければ正確には分からない。もし相手にとって報復が利益にならないのであれば、関税合戦にはならないという分析である。
 

トランプ氏の本心は「望むところだ」?

そして、トランプ氏が「貿易戦争」批判に耳を傾けない理由についても、この記事の中にヒントがある。

トネルソン氏は、トランプ氏がやり玉にあげるメキシコや中国にとっては、アメリカとの貿易には経済以上に大事な意味があるのだと指摘している。政府の命運がアメリカとの貿易にかかっているというのだ。

つまるところ、構造的に弱体なメキシコのような国や、中国のように民主的ではない国の政府は、国民の生活水準をあげることによって、政権を維持している傾向がある。アメリカの市場への自由なアクセスを失うことは、両国の政治のリーダーたちの権威を削ぐことにつながる。

たとえば中国の共産党政権にとっては、世界が目を見張るほどの経済成長を実現して国民の暮らしを豊かにしたという点が、権力の正統性を主張する根拠の一つになっている。自分たちは選挙によって国民から選ばれたわけではないが、実際に経済をよくしているのだから、国を治める権利があるのだという主張だ。

しかし、アメリカから締め出しを食らえば、輸出でこれまでのように儲けることはできなくなり、ただでさえ停滞気味の経済はさらに下降線をたどる。そうなれば、共産党政府による政治に、国民からも疑問符が付く。場合によっては、共産党による支配が崩壊するリスクもある。

トランプ氏は国防費を1割も積み増して、中国の軍拡などの国防の脅威に備えようとしているが、貿易政策でもそれだけの本気度で中国に対して圧力をかけ、力を削ごうとしているのだろう。

冒頭に触れた年次報告書では、制裁関税といった手段について、「適切に使われれば、外国に対する強力な手段になりうる」と書かれている。トランプ政権にとっては、「自由貿易を守るかどうか」は問題ではなく、通商政策も外国とやり合うためのツールのひとつだととらえていることが伺える。

「貿易戦争が起こるから危険だ」という批判は、「貿易戦争」も手段のひとつだと考えている人にとっては、痛くもかゆくもない。トランプ氏が、これまでの政治を支配してきた物差しとは別の考え方を持っていることが、このことからも分かる。 
(著者のブログより転載しました。)

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