2016/10/07    13:31

「日本をシリアにしないために」――平和でない状態から、平和を考える

内戦が5年にわたって続いているシリアをめぐっては、このほど、停戦合意がふたたび崩壊した。和平に向けた取り組みは、これまでに少なくとも17回を数えるが、今回も実を結ぶことはなかった。反体制派が掌握するアレッポ東部には多数の市民が取り残されているが、包囲するアサド政権側は空爆を続けているという。
 
この5年間の内戦で、シリアでは約30万人が死亡したとされる。先日、武装組織との和平合意を国民投票に諮ったコロンビアでの内戦の死者は、50年で約20万人というから、シリアでの戦闘の激しさが分かる。
 
もっとも、第二次世界大戦中に広島・長崎ではたった2発の原子爆弾で、20万人を超える人命が奪われた。原爆は内戦数年分の人命が一瞬で奪われるほどの恐ろしい兵器だと言うべきか、あるいは、核兵器にも匹敵するような規模の悲惨な戦闘がシリアで続いていると言うべきか。
 
とはいえ、いくら多くのシリア人が愛する家族や住む場所を失ったとしても、いくら各国のメディアが和平交渉のたびに「今度こそ平和な世界を」と呼びかけても、情勢を差配する大国に殺し合いをやめる利害がなければ、戦闘は簡単には終わらない。失敗に終わった今回の米ロの交渉でも、アサド大統領を退陣させるかどうかをめぐって対立が続き、どちらも譲る気配はなかった。
 
一国の内戦に過ぎなかったシリア情勢には、現在ではアメリカやロシアだけでなく、周辺の国々やテロ組織なども関与し、構図は極めて複雑になっている。しかしこれも、国際政治の力学のもとに起こっている事態だとも言える。各国の戦略はつねにぶつかり合い、その均衡点を探す。内戦によってバランスが崩れたその力学は、今や粉々になって壊れたシリアの国の上に、新たな均衡点を見出している。
 
では、この日本が、現在のシリアのようにならないためには、どうすればいいのか。そんな問いは、あまりにも突飛すぎるだろうか。しかし、現在のシリアの問題が、各国間の関係における一定の法則のもとに起きているのであれば、たとえ現実的でないように見えても、日本がシリアのようになる可能性はゼロとは言えない。
 
幸いにも日本は、世界第3位の大国としての地位を保ち、国が壊れるような事態が起きることはあり得ないかに思える。しかしこの国とて、アメリカや中国、ロシア、北朝鮮といった核保有国に囲まれ、その均衡のうえに平和な時代を過ごしているとも言える。もし日本が人口の減少と経済の停滞にともなって、このまま国力を落としていったとするなら、あるいはもし、同盟国であったはずのアメリカが、日本を飛び越して中国と仲良くするようなことがあるとするなら、今日の日本の安定をつくっている力学も、どこかでバランスを失わないとも限らない。実際にアメリカでは、日本との同盟の見直しを掲げる大統領候補が選挙戦を戦っている。
 
シリアが内戦状態に突入したばかりのころには、これほどまでの流血沙汰になるとは、誰も予想だにしなかった。アサド大統領がここまで粘るとは思いもよらなかった。「イスラム国」などという組織が台頭して、国土を分けるなどと予言できる人はいなかった。それなら、日本が今日のままで、いつまでも平和だと誰が言い切れるだろう。
 
シリアには支配層と国民との宗教的な宗派の違いが以前から存在していた。そして、民衆の抗議行動に対して政権側が武力で応えたことによって、内戦の火ぶたが切られた。幸いにも日本には、国民を大きく分断するような人種や宗教の対立はない。だが、国としての一体感を保つことの重要性は分かる。
 
この国を分裂させないためには、一人ひとりが「日本とはどのような国か、どのような国であるべきか」を日本人として考え、政治に参加することが重要だと言える。そして、常に民主的な対話を通じて、この国のあり方についてのコンセンサスを得るように努め、この国を守るための方法を考えていく必要がある。
 
シリアの内戦は人道的な危機と言えるが、それは人権団体だけが注意を配ればいい問題だという意味ではない。いかにして平和は失われるかを考えることが、平和を守ることにつながる。

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