2016/11/07    18:01

イギリスの試練はこれから始まる

Brexitを食い止めるべき動きが生まれている。保守党、労働党、自由民主党のBrexitに反対する議員が纏まって、政府がリスボン50条をEUに通達する前に、議会で事前の審議そして承認が必要である。それなくしてEUに通達するのは違法であるという訴えを起こしたのである。恐らく、最高裁でそれが審査されるはずであるとしている。これはまた残留を希望するスコットランドと北アイルランドが実施しようとしている国民投票とも関係して来る可能性もある(「Clarin」「El Mundo」)。

また、最近ではブレア元首相が、英国のEU離脱は深刻なる損害を英国にもたらすとして、それを阻止すべく新たに国民投票を実施すべきだと表明している。EU離脱の阻止と労働党の再建を望んで政界に復帰することを窺っているという報道もある(「lavanguardia」)。
 
キャメロン前首相がEU離脱か残留かの国民投票をやらざるを得なくなったのは党内の離脱支持派の圧力が日に日に増大していた上に、英国独立党(UKIP)が支持を伸ばして保守党の地盤を揺るがし始めていたからであった。そして、60%の英国民もその国民投票を望んでいた。それらが国民投票の実施を決定させた要因となったのである。しかし、世論調査では当初、残留支持が優位を保っていた。それが油断となったのか、残留の為のキャンペーンが充分に実施されなかったようである。特に、残留が勝利すると勝手に判断して投票しなかった若者が多くいたのもBrexitが勝利した重要な要因となったとされている。
 
まず、EU側と交渉に臨むことになるメイ首相が率いる英国政府であるが、キャメロン政権で首相付政務報道官を務めたクレイグ・オリバーが「キャメロン首相はテリーザ・メイの行動に非常に失望していた」とスペイン紙「El Mundo」の電話インタビューで答えたことがあった。

そして、「首相は彼女のことを最後まで疑った。何故なら、(EU離脱か否かの)国民投票のキャンペーン中、彼女は明確な姿勢を示すことを長引かせていたからだ。もう時間切れとなった時点で(離脱反対を)表明したが、それも曖昧なものであった。私が考えるに、彼女は自分を上手くつくろう意味で残留51%、Brexit49%という考えであったように思える」と受話器の向こうから語った。

キャメロン首相自身は2月に、あと半年したら彼女が後継者になるであろうと予測していたが、離脱派の勝利が濃厚となった時点で、絶望感を抱いていたキャメロンの側近らは鍵を握る重要な時はいつもメイが行方をくらます傾向があったことから、彼女のことを「潜水艦メイ」と呼ぶようになっていたと述べた。それが余りにも目立つので、このキャンペーンの指揮を取っていたジャック・ストローは首相官邸にメッセージを送り、「テリーザ・メイはEU離脱派のメンバーではないというのは確かなのか」と問い合わせて来たこともあったとクレイグ・オリバーは語った場面もあったという。
 
更に、インタビューの中で同氏は、「バーミンガムでの党大会ではテリーザ・メイは党内の強硬派に目配せせねばならなかったのであろうが、リスボン条約50条をEUに通達して交渉に入った時点から党内の緊張は更に深まるはずだ」「党が結束しているかのように(党大会で)見せかけようとしたが、それは長く続きはしない」とも語った。元々、メイ首相自身がEU離脱に反対していたということも最近の報道で明らかにされている(「El Conidencial」)。
 
EU離脱に内心反対していたメイ氏が首相になって、自らの考えとは180度反対の方向に国を導こうとしている姿勢には、いずれ問題が生じて来るはずだ。
 
上述の党大会でメイ首相は党内の離脱派の圧力に屈したかのように、「Hard Brexit」をEUとの交渉の柱にする表明をした。即ち、移民の入国はEUではなく、英国がコントロールするということだ。しかし、EUの規定は人、物、金、サービスは一体のもので、EU域内でその移動の自由を認めるとしている。
 
英国がそこから人だけを切り離して、その移動の自由を認めないという考えはEUでは受け入れられない。よって、EU共同市場への英国のアクセスは人の移動の自由も認めない限り、EU加盟諸国と同一の条件でのアクセスは出来なくなる。これが、双方の交渉の重要なポイントの一つになる。また、EU法の適用ではなく、法律は英国の議会で決めたものが適用されるという考えも問題となって来る。
 
英国が「Hard Brexit」をもとに、EU側と交渉すれば、EU市場への英国からの輸出が課税の対象になる可能性がある。それを非常に懸念しているのが、例えば、英国の日産やトヨタである。両社の生産車の多くがEU市場向けだからである。この問題について、日本政府も強い不安を抱いている。何しろ、英国で日系企業は14万人を雇用していることからも窺われるように、日本企業の英国での投資は今後の現地の日系企業の発展に大きく影響するからである。英国がEU市場へのアクセスに関税など付加税が加えられることになれば、日系企業の英国からの撤退は増える可能性がある。
 
英国経済がEUの中で比較的好調だったのは2000年頃から不動産バブルの高騰が英国経済の成長を持続させて来たからである。そして外国からの投資も盛んである。ユーロを導入していない関係から、イングランド銀行は欧州中央銀行の金融政策を考慮しながらも、独自の金融政策が取れるというメリットもある。しかし、英国は対外債務がGDPの400%を占める国で、英国への信頼が薄れて外国からの投資が減少すると金融危機を招く可能性があることは意外と知られていない。すなわち、EUから離脱すれば、その可能性があるということである。
 
英国について不安材料としてあるのは、アメリカエンタープライズ研究所のラークマン経済専門家が指摘しているように、英国は1967年、1976年そして1992年とポンド危機を起こしている国であるということだ。よって、英国がEUとの交渉で「Hard Brexit」を主張し続けると、ポンドへの不安を呼ぶのは必至で、外国からの投資は減少して、またポンド危機が再燃する可能性がある(「i Profesional」)。
 
EUとの交渉の開始についても、また疑問がある。交渉は英国がリスボン条約50条を通達した段階から始まるとされている。しかし、来年の4月はフランスの大統領と議会選挙、9月はドイツの総選挙、そして2019年は欧州議会選挙がそれぞれ予定されていることから、双方が交渉のテーブルに就くのは早くて来年末と見られている。また、この種の経済協定の交渉の合意に至るまでに5年を要するのが一般的である。しかし、2020年には英国総選挙が控えているのだ。
 
それまでの交渉の結果次第で、英国で政権の交代が起きる可能性もある。これらの事情から、英国政府が言っている2019年4月頃に英国がEUから離脱するというプランが実現されない可能性は十分にある。しかも、交渉で合意がされても、準備期間を経てそれが実際に実施に移されるには交渉開始からおおよそ10年を要すると見るのが常識である。それまで、英国がEU離脱の決定を維持できるであろうか。大きな疑問である。
 
というのも、英国経済が安定した状態を長く保っているわけではない。EUから離脱すれば英国のGDPは後退するというのがどの研究機関でも共通した見解である。GDPが後退して行く中で、英国政府がBrexitを主張し続けることが出来るのであろうか。

メイ首相が女性であるということで、英国の発展を期待して、サッチャー元首相と比較する傾向がある。しかし、両者で最大の違いはスペインのフェリペ・ゴンサレス元首相がキャメロン前首相が国民投票を実施すると決めた時に次ぎのように語った事から見ることができる。「サッチャーは自由経済圏は求めたが、EUというひとつ統一組織体には反対してきた。しかし、彼女は『私は、規模の大きな統合には反対です。しかし、ヨーロッパの列車から降りることは絶対にしません』」とゴンサレス氏に語ったそうだ。メイ首相はその列車から降りることを決めたのである。
 
また、サッチャーは有能な人材であれば優遇した。メイはBrexit支持派の人材だけで固めたとスペイン紙「OK Diario」が伝えた。
 
英国の試練はこれから始まったばかりである。

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