2016/07/03    15:54

ブラジル大統領の罷免の背後に誰がいた?

ブラジルのルセフ大統領には現在最大180日の職務停止が適用され、公職から離れている。これから上院で弾劾法廷が設けられて上院定員の3分の2の54議席が罷免に賛成すれば彼女は完全に大統領の職務から解任されることになる。しかし、その54議席の罷免賛成が難しいという状況になりつつあるという。大統領代行を務めているテメル政権で既に汚職の前科のある閣僚が摘発されているのだ。テメル大統領代行にもペトロブラスの汚職に染まっているのではないかという審査も行われている。すなわち、2018年までテメル政権が続くことにも疑問が沸いている。

ルセフ氏が罷免されることになった理由は、総選挙をにらんで議会に提出した国家予算の赤字を隠蔽し扮飾したというのがその主因だ。ただ、それが罷免要求が起きるほどのレベルの違反ではない。しかし、彼女を解任させたいという要請がブラジル政界にあったようだ。当初、野党議員が作成した罷免要求を下院議長のクーニャ氏が受理したことが今回の「議会によるクーデター」の発端である。が、クーニャ氏が属する民主運動党(PMDB)はルセフ大統領の労働者党(PT)と連合政権を担っていた政党であった。ということは、連合政権のルセフ大統領を擁護せねばならない立場にあったはずだ。

PMDBはもともと右派でPTの左派とは政治イデオロギーが異なるというのは理解される。しかし、この二つの政党が連合政権を担っている以上、ルセフ大統領を罷免しようとする動きに対してクーニャ議長は反対するのが当然であったはずだ。それを彼は罷免要求を受理して審議にかけることを決定した。そこには以前、クーニャ氏の汚職を審査するか否かの審議にPTが賛成を表明して審査の遂行が決まった。その報復として、今回、クーニャ氏が罷免要求を受理したと憶測された。

しかし、ルセフ大統領への罷免を可決させたのはブラジル政界だけではないと憶測されている。背後で米国が糸を引いていたというのだ。米国は1990年代に中南米諸国との関係維持に息を抜いていた。その間に中国が特に南米に資金力でもって介入した。と同時にベネズエラではチャベス氏が登場して大統領になると、ボリバル革命と称して反米主義を強く訴えた。

そして、原油の輸出で得た資金力でもって賛同国を募った。その結果、エクアドル、ボリビア、ニカラグアがそれに信奉するようになった。ほぼ同じ時期にブラジルにはルラ大統領が誕生し、同じく反米主義を唱えた。そしてアルゼンチンも当時政権を担っていたのは本来右派政党であったが、ボリバル革命に共鳴した。その結果、反米主義がアルゼンチン、ブラジル、ベネズエラ、ニカラグア、キューバ、エクアドル、ボリビア、ペルー、パラグアイ、ウルグアイといった国々に拡がったのである。そして、中国とロシアが中南米に進出しているのを米国は手をこまねいて傍観するという事態になっていた。

2013年にチャベス大統領が亡くなると、米国はベネズエラに一度クーデターを仕掛けたが失敗に終わった。その後、世界的に原油安になって行くと同国の資金力も衰えボリバル革命を賛同国と一緒に推進して行くことも難しくなって行った。同様に、ブラジルやアルゼンチンも経済は後退。一方の米国はキューバと国交再開、アルゼンチンともマクリ大統領の誕生によって米国との関係回復を実現させた。ベネズエラも近い将来マドゥロ大統領も退任か解任が迫っている。それ以外の反米主義を唱えた国々でも反米意識は下火になっている。

このような変化が生じている中南米で、米国が以前から米国の傘に入れるべく標的にしていたのが、ラテンアメリカで最大の経済大国ブラジルであった。しかし、労働者党の政権下での関係改善は容易ではないと見ていた。その上、米国がNSAを使って2009年頃からルセフ大統領の動きやラテンアメリカで最大企業ペトロブラスの動きを監視していたことがスノーデン氏の発言によって明るみになりブラジルとの関係改善はより難しくなっていた。

しかし、NSAの諜報活動によってペトロブラスで大掛かりな汚職が行なわれていたのを発見。それが導火線となってブラジルの政界が汚職に紛れていることが明るみになるのであるが、米国政府は2014年からその情報をブラジルの報道メディアに流しルセフ大統領の崩壊を狙った。その対象になったのが同国最大の報道グループGloboである。Globo自身も社会主義の労働者党政権では国の発展はないと見て、ルセフ政権崩壊に積極的に動いた。そして多くの企業も新しい政権の誕生を望んで企業連盟がその急先鋒になって政権の後退を模索した(「the Guardian」)。

ペトロブラスに絡む汚職事件の解明が検察局によって拡がって行くにつれて、ルラ前大統領とルセフ大統領もこの汚職事件に絡んでいると推測されるようになり、二人を法廷に立たせるべきだという要求が国民の間から生まれた。しかも、労働者党の上院議員のひとりが自分の罪状の軽減と交換でルラ前大統領がペトロブラスの汚職に直接関与していたこともGlobo networkのテレビ番組で発言するという出来事もあった。

また国家指導者への不満を煽るようにブラジル経済は昨年から急激に後退し、そして今年も後退が予測されている。2年連続してのマイナス成長は70年振りだ。失業率も年々増加している。財政難から連邦警察への給与も遅延し、警察の士気も低下して治安の安全に支障をきたすようになっている。またルラ前大統領の政権下で貧困から抜け出ることが出来た世帯がまた貧困に戻るという事態にもなっている。

ついに、国民レベルでもルセフ政権への不満は募り、彼女を罷免する動きに賛成を表明するようになったのである。それに便乗したのが議員数で最多政党のPMDBで、連立政権を放棄して野党に回るという芸当をやってのけた。その背後には米国政府の支持があったように思える。その証拠に罷免が成立するとPMDBの議員が早速ワシントンを訪問しているのだ。そして、その党首のテメル氏が今回大統領の代行を務めることになった。テメル氏は嘗て米国諜報機関に情報を提供していた人物だ、という情報も5月13日付ウイキリークが報じた(「Publico」)。

先に触れた、ルセフ大統領の罷免が上院で可決された翌日、同党のアロイシオ・ヌネス議員はワシントンを訪問して、国務省のラテンアメリカ担当の主要人物トム・シャノン氏らに会ったと、米国の政治経済調査センターのマーク・ウエイスブロット所長が「Democracy Now」のインタビューで語ったという。同氏は、この会見が早速持たれたのはまさに米国政府がルセフ大統領の罷免を支持していた証拠だとし、「米国はブラジルで労働者党の政権を離れることを常に望んでいた」と述べたという。

また米国の政治専門家のアンドリュー・フィシュマン氏は「ヌネス氏の今回の訪問は注目されるべきことだ」と述べ、「彼はルセフ政権の反対派のリーダーのひとりで、またブラジル上院の外交委員会のメンバーでもある。米国との関係強化を促進するというのが同氏の主要目的のひとつである」と指摘した。
(「KATEHON」)
 
テメル政権が2018年まで続くか否かは疑問である。短期に経済回復の兆しが見られない場合は前倒し大統領選挙と議会の総選挙とを同時に実行する可能性がある。もともとテメル大統領代行への国民からの信望も低い。

今年8月にはオリンピックの開催が予定されている。すでに、現在まで3人のスポーツ大臣が交代している。リオデジャネイロ州の内務長官は「O Globo」のインタビューに答えて「オリンピック開催中の警備体制は予算の関係から50%削減せねばならない」と発言している。テロ組織がこのオリンピックを攻撃の標的にしていると言われている。開催中の安全が危惧される。

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