2017/02/21    09:36

トランプ擁護論から見えてくる、アメリカ政治の主導権争い

就任から1カ月と経たない間に、ドナルド・トランプ米大統領が窮地に立たされている。中東やアフリカの7カ国を対象とした入国禁止令に対して、裁判所が執行差し止めの判断をくだしたことに加えて、最近ではマイケル・フリン大統領補佐官が、就任前にロシアの外交官と接触した事実が明るみになり、辞任に追い込まれた。

大統領令を連発して自身の政策を推し進め、記者会見の代わりにツイッターで情報発信を行うトランプ氏の姿勢については、独裁的だという批判が続いている。アメリカ政界についての連日の報道を見れば、まるでトランプ氏という破壊者からアメリカの民主主義を守るための戦いが、行われているかのようである。

日本での報道は、アメリカの主要メディアの方向性をなぞるようなものが多く、その反対側にある意見については、伝えられることが少ない。しかし、あえてトランプ氏を擁護する側の意見を見ていくと、今後は逆に、トランプ氏を必死に攻め立てている側の方が、むしろ民主主義の原則をないがしろにしてまで、トランプ氏打倒に動いているのではないかとも思えてくる。
 

法律について述べない裁判官?

まず、イスラム圏を狙い撃ちにしたと言われる、テロ対策の入国禁止令について。事の発端は、ワシントン州の連邦地裁が、この大統領令に対して一時差し止めを命じたことにある。トランプ政権は控訴したが、訴えを聞いたサンフランシスコ控訴裁がこれを却下した。政権側は、大統領令の修正版を作成して、禁止令を維持したい構えだ。

このワシントン州の連邦地裁がくだした判断が興味深い。判事は執行を差し止める根拠として、この大統領令が、「公立大学やその他の高等教育機関の運営や使命を害するほか、州の運営や課税ベース、公的資金にも損害を与える」と論じている。つまり、入国できない人々が出たために、留学生が大学で学べなかったり、税金を払う人が減ったりすることが、差し止めの理由だと言うのだ。

テロ対策を理由とした大統領令に対する判断にしては、議論がかみ合っていない印象だ。しかも、そもそも1952年に成立した法律では、アメリカの国益にとって有害だと考える場合、大統領は外国人の入国を停止することができると定められている。入国禁止令はまるでトランプ氏の暴走のように報じられているが、実は立法府の議会が、大統領が入国禁止の措置を取る権限を認めているということだ。

そう考えると、入国禁止令の停止をめぐる今回の騒動は、「大統領のご乱心」なのか「裁判所のご乱心」なのか、見解が分かれるところだ。ヘリテージ財団のハンズ・ボン・スパコブスキー上級研究員は、「(差し止め判断を書いた)ロバート判事は、自分の仕事は、『立法と行政がとった行動が、この国の法律や、さらに大事なことには、憲法に合っていると保証すること』に『限定される』と述べている。しかし、ロバート判事は、今回の大統領令や大統領の行動に適用される憲法の条文や法律がどれなのか、まったく議論していない」と批判している。

裁判所の判断について、トランプ氏が「いわゆる裁判官」などという言葉を使って、司法を侮辱したことは、たしかに軽率だった。しかし、トランプ氏の振る舞いに目が行くあまり、裁判所までもが行きすぎた判断をくだすとしたら、それは重大な問題だろう。
 

政府 vs. トランプ

最近では、マイケル・フリン大統領補佐官の辞任劇をめぐって、もうひとつ騒動があった。フリン氏が就任前にロシアの外交官と電話で協議し、ロシアに対する制裁の解除について議論していたというのだ。民間人が外交政策に関与することは禁じられているため、フリン氏の通話記録がマスコミに報じられたことで大問題となった。

ワシントン・ポストなど主要紙は、トランプ政権とロシアとの関係について検証すべきだと論じている。それも重要な論点だが、むしろ懸念されるのは、民間人だったフリン氏の通話記録が、なぜマスコミにリークされたのかという点である。原則から言えば、政府は国民を必要以上に監視すべきではなく、監視があったとしても、その記録は厳重に管理されるべき秘密のはずだ。こうした機密情報がたやすくマスコミに流れるということなら、秘密を知り得る人間が政治的に誰かを葬ることも可能になってしまう。

しかも、情報をリークした張本人は、匿名でしかマスコミの報道に登場しない。あるコラムニストの言葉を借りれば、匿名というマントに隠れて誰かの信用を破壊することができる。今回の問題で言えば、トランプ氏の大統領就任を不服に思っている情報機関などの関係者が、同じく「トランプ憎し」のメディアと結託して、トランプ政権を転覆させようとしているようにも見える。実際に、情報機関は、トランプ氏が機密を流出させる恐れがあるとして、一部の情報を大統領に報告しないようにしているという。

トランプ氏が選挙中に繰り広げた情報機関に対する批判が不服だったとしても、民主的に選ばれた大統領の職務を政府機関がサポートしないというのは、由々しき問題だろう。

ウォールストリート・ジャーナル紙は社説で次のように述べ、フリン氏の辞任をめぐる問題が、実はトランプ氏と官僚との戦いの一環であると分析している。

これらの情報流出が、トランプ氏の選挙中の批判に気を悪くした情報機関による、フリン氏に対する報復だとしたら、ホワイトハウスは安全保障の仕事の始まり以上の問題を抱えていることになる。政府は、真偽不明の情報のリークによってさらに重大な損害を与えかねない、官僚による反乱に直面しているということだ。


政府機関にマスコミにと、あわよくばトランプ氏の失脚を狙う勢力は、各所に存在している。トランプ氏の行動については、民主主義の原則を無視しているという批判がよく聞かれる。だがその批判は、彼を妨害する側についても当てはまる部分がある。言ってみれば、政敵を倒すという目的のためなら手段を選ばない、政治というドラマを見せられているかのようだ。

トランプ氏は、ワシントンのこれまでの政治に対する宣戦布告とともに、大統領に就任した。そして、まさに今、従来の政府機関とマスコミとを向こうに回した、トランプ氏の戦いが始まっているということだろう。普通なら最初の100日は、マスコミが大統領に対する批判を避ける「ハネムーン」の期間と言われるが、トランプ政権に関しては、マスコミは発足前からずっと戦闘モードだ。

波紋を呼んだ入国禁止令も世論調査では一定の支持を集めており、トランプ氏はこれまでのところ、持ちこたえていると言える。高成長をうたう経済政策はこれからで、発足時には低かった支持率も、これから浮上する余地はまだ大いにある。しかし、ウォーターゲート事件の再来を懸念するも出ており、ワシントン内部での戦いが熾烈(しれつ)を極め、マスコミがスキャンダルの演出に成功し続ければ、政権運営がつまづかないという保証はない。トランプ政権は最初の1カ月で、予告どおり(?)、早くも激しい対立を呼び起こしている。「トランプ劇場」の、見応えある幕開けである。

(著者のブログより転載しました)

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