2017/01/03    10:32

「次は南京で慰霊を」と言われたら、安倍首相はなんと答えるのだろう。

安倍晋三首相の慰霊のための真珠湾訪問は、見方によっては不思議な行動に見える。

純粋に「慰霊」をしたいというなら、官邸にほど近い靖国神社に真っ先に行ってもいいものを、そちらには3年もの間ご無沙汰している。命を懸けて自分の国を守ろうとした先祖よりも、海の向こうのハワイに敵兵の弔いに行かなければならないというのは、どういう理由からだろうか。

そして、今回の訪問は謝罪のためではなく、オバマ米大統領の広島訪問に対する返礼でもないという。しかし、いくら表向き、「謝罪しない」と言ったところで、首相が自ら真珠湾の地に赴いて、慰霊式典を行うというのは、実質的に謝罪したのと同じことである。

 

■ 真珠湾訪問の政治的な計算


「保守派」を自認する安倍首相は、こうした点を十分に承知していたはずである。それでも彼が真珠湾に赴いたのは、歴史的な和解や慰霊そのもののためというよりは、中国の脅威が迫ってくるのを前にして、アメリカとの関係を少しでも前に進めておく必要があったからだと言える。アメリカのある日本研究者の言葉を借りれば、「安倍氏の真珠湾訪問の背景には、賢い政治的計算があった」ということだ。

安倍首相は昨年の米議会での演説、オバマ大統領の広島訪問、今回の真珠湾訪問を通じて、日米の和解を世界に発信した。日本とアメリカが不幸な歴史を乗り越え、世界の秩序を守るために協力するという姿は、歴史問題で日本に謝罪を執拗に求め、周辺国に軍事的な脅威を与える中国への強力なメッセージとなる。

安倍首相の真珠湾訪問に対して、中国外務省の報道官は「世界反ファシスト戦争の東方の主戦場が中国だったことを忘れてはならない」「アジアの被害国にとっては、巧妙なパフォーマンスを何度繰り返しても1度の誠実な反省に及ばない」などと牽制した( )。

だが、戦後、民主主義を重んじ、軍事力の使用を極端なまでに控えてきた日本とは対照的に、中国共産党政府は国内で一党独裁のファシスト体制を敷き、チベットなどへの侵略行為を繰り返してきた。日本を批判すればするほど、その姿は滑稽に見える。批判の矢は自身に跳ね返ってくる。

アメリカとの和解を通じて、安倍首相は国防のための同盟の絆をより強固なものにするとともに、中国の歴史問題による攻撃を無力化したと言える。

 

■ 我慢の末につかんだ「最後の砦」というポジション


アメリカにとっても、安倍首相はアジアの安定を守る上での心強いパートナーとなったどころか、今や「最後の砦」だ。韓国では朴槿恵大統領がスキャンダルで実質的に退き、左派の力が強まっている。フィリピンは南シナ海問題で仲裁裁判所の勝訴を勝ち取ったが、新任のドゥテルテ大統領はそれを棚上げして中国にすり寄り、中ロの国際秩序に加わりたいと言い出すなど、予測がつかない。そうした中で、一貫してアメリカとの関係を重視する政策をとっているのは、日本の安倍首相くらいである。

「アジア・リバランス」を掲げたオバマ大統領に代わって、1月にはトランプ政権が発足する。中国に対しては、トランプ氏はオバマ大統領以上に強気の姿勢を示しており、そこでも頼りになるのは、日本との同盟ということになるだろう。

こうした地位は、オバマ大統領との我慢強い関係づくりの末に、勝ち得たものだ。当初は危険なナショナリストだと思われていた安倍首相だったが、従来の歴史問題での主張を封印し、アメリカとの歩調を合わせて、ここまでの関係強化を成し遂げた。

「かつての敵同士が和解し、世界の平和を守るための協力関係をつくりあげた」というストーリーは、現在のスタンダードな歴史観の枠組みの中では、最高のかたちと言える。安倍氏はできうる限りの努力を惜しまず、アメリカとの関係強化に邁進した。

 

■ 「八方美人」はいつまで通じるか


一方で、安倍首相が試されるのはこれからだろう。オバマ大統領は1月に退き、今度はトランプ大統領の時代が来る。バイデン副大統領が「日本が核を持たないための憲法を、我々が書いた」と発言するなど、オバマ政権は日米同盟の重要さをうたいながらも、潜在的には日本の軍事力を快く思わない政権だった。

それに対してトランプ氏は、日本の核保有を容認すると示唆するなど、日本が自前の防衛力を持つことを期待している節がある。いわば、オバマ政権という「フタ」が外れると言ってもいい。これまでオバマ政権に配慮していた安倍首相は、ここから、宿願である憲法改正を実現し、自衛隊に正式な軍隊としての位置づけを与え、国防強化を進めることができるかどうか。

そして、国防を強化するということは、自衛隊員が戦死した場合の追悼と慰霊の方法も考えなければならないという意味でもある。この点において、国防と皇室のあり方、歴史問題は交差する。戦死者の慰霊を行うとすれば、それは靖国神社なのか、市ヶ谷なのか、その他の施設なのか。方法は無宗教なのか、神道なのか、仏式なのか(そもそも「無宗教の慰霊」があり得るのかは改めて考える必要がある)。考えるべき論点は多岐にわたり、この国の国柄と関わる。こうした問題に、哲学をもって取り組み、一本、筋を通さなければならない。

安倍首相はここまで、日本に不利な謝罪にも、米中韓が神経質になっている歴史認識の見直しにも、どちらにも距離を置きながら、歴史問題を解決するという離れ業を目指してきた。その「八方美人」はどこまで通用するだろうか。それがこれから問われることになる。

今回の真珠湾訪問にしても、禍根を残すおそれを含んでいる。真珠湾を訪れてアメリカとの和解を実現したのなら、今度は南京を訪問して中国とも和解すべきだという声が出てくることは、想像に難くない。もし「今度は南京で慰霊すべきだ」という声が高まったら、安倍首相はどのように答えるのか、興味をそそられる。

これまでの政策でいけば、靖国神社への参拝を1回限りで中止し、韓国には慰安婦問題でおわびの合意を結び、自ら真珠湾におもむいた総理大臣が、今度は南京を訪れて日中首脳会談を行ったとしても、なにも不自然さはない。断るなら断るで、キチンとした理由を持ち出さなければならない。歴史認識の見直しについて真正面から論じることを避けてきた安倍首相は、なんと答えるだろうか。もし仮に、筆者が中国の国家主席だったとしたなら、安倍首相に南京での慰霊式典と首脳会談を持ちかけてみたいところだ。

今回の真珠湾訪問は、日米同盟の強固さと、アメリカとの和解を示す、絶好の機会となった。安倍首相の外交での成果を世界に発信するとともに、退任するオバマ大統領にも花を持たせることができた。だがその反面、歴史認識の見直しという課題の重さは、いっこうに解消されないままである。

(※ 筆者のブログから転載しました。)

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