2016/10/19    12:50

なぜキューバとの関係が大事なのか――安倍首相の訪問の目的は何だったか

ハバナの旧市街


安倍首相が9月に国連総会出席の後、日本の首相として初めてキューバを訪問したことは日本でも報道された。キューバ革命の推進者だったフィデル・カストロ前評議会議長と弟で現評議会議長のラウル・カストロ氏の両者と会談をもった。今回の首相のキューバ訪問は両国の貿易の進展並びに投資、そして非同盟運動(Non-Aligned Movement NAM)の加盟国の中では依然影響力をもっているキューバに北朝鮮の無謀な核開発の阻止に理解と協力を求めることが狙いであった。
 
キューバとの関係強化で無視できないのが中国の存在である。2015年の両国の取引額は16億ドル(1616億円)で、前年比の50%増しとなっている(「DW」)。
 
しかも、昨年7月の習主席のハバナ訪問では30項目の合意も交わさっれたという。一方のキューバと日本の2014年の取引額は3500万ドル(35億3000万円)であった(「Marti」)。
 
また、キューバはかつてソ連、そして今はロシアの影響が強い国でもある。ソ連時代にはキューバ経済の70%はロシアに依存していたという(「DIARIO DE CUBA」)。
 
安倍首相の今回の訪問の後に、李克強首相がハバナを訪問している。それが、あくまで安倍首相の訪問を牽制する意味での訪問であったというのは明白である。何故なら、李首相の訪問日程は安倍首相がキューバに到着した時点で、まだ調整中だったのだ。通常であれば、国家の首長の訪問は事前に訪問日程が決まっているはずである。
 
今回の安倍首相の訪問を前に、現地の9月22日付キューバの電子紙「Marti」は、日本政府がキューバに対して18年払いで負債として抱えている17億8100万ドル(1800億円)から65.9%の減免を実施し、残金6億600万ドル(670億円)だけを返済金とするとした。しかも、その内の2億4900万ドル(252億円)はキューバの日本企業への投資資金として現地で留保するという取り決めになった、と報じた。また、昨年6月には日本の民間部門に対しキューバが背負っていた凡そ10億ドル(1010億円)の負債も減免されたことも言及した。

キューバの現状は支払い能力に欠けており、今回の日本政府の減免はキューバとの今後の貿易取引の拡大には重要な援助となっている。キューバにとって、巨額の負債を抱えてた状態では容易に取引を発展させることができないからである。また、昨年4月末に岸田外相がキューバを訪問している。その時に外相は更なる経済援助を約束したという。2012年までの支援金は5600万ドル(566億円)となっている。

今回の安倍首相の訪問で医療機材の給与が約束された。それは、将来的には日本からの医療機材の輸出を目的としたものであろうと見られている。また、キューバは一般に化学医薬品や医療機材の設備は十分ではない。しかし、一部の研究分野では世界的に高い評価を得ている。例えば、肺がんの治療ワクチンCimaVax EGFはキューバで開発されたもので、世界レベルで高く評価されている。その意味で、今回の日本からの医療機材の提供は両国の医学分野での協力の道も開けることになる。
 
興味を引くのは、キューバ共産党中央委員会の機関紙「グランマ(Granma)」とキューバ電子紙「DIARIO DE CUBA」も日本政府からの負債の減免について一切言及していない点である。特に、共産主義の上述党機関紙は国が負債を抱えているといったことを国民が知るのを避けているようである。
 
また今回の安倍首相の訪問目的のひとつである北朝鮮による核問題について、キューバ政府の協力を仰ぐことである。キューバと北朝鮮の関係はフィデル・カストロ前議長の時代から続いている。北朝鮮は厳しい制裁下で外国市場からの物資の輸入やテクノロジー分野の導入において制限がある。それをキューバが手助けして第三国との繋ぎの役目を担っているのである。若い独裁者の金正恩氏もキューバとはこれまでと同様の関係を保っているという。
 
昨年の両国の国交樹立55周年にキューバからミゲル・ディアス第一副議長が平壌を訪問している。また、北朝鮮の建国70周年には共産党評議会の幹部サルバドール・バルデス氏がその祝典に参加したという(「Cuba net」)。
 
キューバと北朝鮮の両国の信頼関係を裏付ける事件が2013年7月に起きている。キューバを出港した北朝鮮の貨物船がパナマ運河を通過する際に、パナマ当局が拿捕して船内を2日間検査した結果、20世紀の半ばに生産されたキューバ所有の兵器が検出されたことである。その押収された内容は地対空のレーダーバッテリー、2発のミサイル、9発分のミサイル部品、戦闘機Mig-21bisが2機とそのエンジン15台などであったという。キューバ政府はその釈明に修理の為に送ったもので、修理されたら返送されることになっていると答えたという。しかし、北朝鮮では武器の輸出入は国連の制裁で禁止されている(「El Pais」)。
 
ストックホルムの国際平和研究所(SIPRI)の兵器の専門家ヒュー・グリフス氏によると、今回の査察に入った北朝鮮船「Chong Chon Gang」は同研究所の不審対象リストにいつも掲載されている船だったという。この船は、麻薬や軽量兵器の密輸送したことがあり、2010年にはウクライナで拿捕され、またソマリアでは海賊に襲われた経験を持つ船だと同氏はAP通信記者に答えたそうだ(「El Pais」)。

今回、パナマ当局が査察に至った理由は、信頼ある情報筋から麻薬か違法物を積んでいると思われるという知らせが査察する1週間前に同局に届いたからだという。表向きは12.5トンの黒砂糖を積載していると申告されていたという(「El Pais」)。

この出来事からも裏付けされるように、両国は今も特別な関係を維持している。今回の安倍首相のハバナ訪問は、キューバを介して北朝鮮が軍事的緊張を和らげる行動を取るように安倍首相はカストロ兄弟に協力を要請したという。また、北朝鮮に拉致されている12人についての早急なる解決に協力を仰いだという(「Info Latam」)。
 
日本がキューバとの関係強化に動き出したのは、米国が昨年54年振りにキューバと国交を回復したことに影響している。しかし、その動きに合わせるようにしてヨーロッパでは先ずフランスがEU加盟国のどこよりも早くオランド大統領が昨年キューバを訪問した。また制裁全面解除となりつつあるイランがラテンアメリカとの外交に積極的になっている。ロウハニ大統領は9月のベネズエラで非同盟諸国首脳会議が開催されたのを利用してキューバを訪問した。そして、李中国首相の訪問であった。

特に、李首相のキューバ訪問では9月26日付「eldiario」電子紙が報じるように、医療分野では両国でジョイントベンチャー企業を設立し、そこではバイオセンサー、グルコメーター、その他分析機器の生産をするとした。そして、モノクローン抗体や組換えタンパク質の研究開発を共同ですることでも合意したという。このプロジェクトをキューバが改革の一貫として外国からの投資を求めて建設したマリエル自由貿易地区(ZEDM)で実施するとした。日本からの医療分野での協力のもう一歩先を行く感じだ。しかし、これを実現させることが出来るか否かはまた別問題である。何しろ、キューバは資金のない国だ。しかも、官僚組織が政治・経済にのさばっている国であり、容易には進まない。

現在キューバが抱えている問題は産業発展が遅れていることに加え、外貨を稼ぐ柱になる産業がないことである。医師を危険地域や発展途上国に派遣してその奉仕金といった形でキューバ政府が受け取る外貨も重要な政府の歳入のひとつになっているほどだ。将来的に発展が期待できるのは観光業であるが、その為のインフラが全く不十分である。また、キューバ国民も急激な社会変化に順応できないでいる。原油も新しい油田が発見されてはいるが、その採油は2018年からの予定で、採油されても当面は自給できる量が期待できるだけと予測されている。ベネズエラからの安価な原油の供給を受けられなくなっている現在、他国からの輸入に依存せねばならない。現在、ロシアから原油を安価な価格で提供してくれるように要請しているという。

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